最高裁平成23年5月30日第二小法廷判決(第7版37事件)

 

(事例)高校の教諭Xが職務命令に従わず、戒告処分を受けた。その後、非常勤の嘱託咽頭の採用選考も不合格となった。Xは、職務命令は19条に違反し、不合格としたことは裁量権の逸脱濫用であり違法であると主張し、Y(東京都)に対し、国賠法に基づく損害賠償等を求めた。上告棄却。

 

「Xの考えは、「日の丸」や「君が代」が戦前の軍国主義党との関係で一定の役割を果たしたとするX自身の歴史観ないし世界観から生ずる社会生活上ないし教育上の信念等ということができる。しかし、本件職務命令当時、卒業式等の式典において、国家斉唱が広く行われていたことは周知の事実であって、規律斉唱行為は、一般的、客観的にみて、これらの式典における慣例上の儀礼的な所作としての性質を有するものであり、かつ、そのような所作として外部からも認識されるものというべきである。したがって、上記の起立斉唱行為は、その性質の点から見て、Xの有する歴史感ないし世界観を否定することと不可分に結びつくものとは言えず、Xに対して上記の起立斉唱行為を求める本件職務命令は、上記の歴史観ないし世界観それ自体を否定するものということはできない。また、外部からの認識という点から見ても、特定の思想又はこれに反する思想表明として外部から認識されるものと評価することは困難であり、職務上の命令に従ってこのような行為が行われる場合には、上記のように評価することは一層困難であるといえるのであって、本件職務命令は、特定の思想を持つことを強制したり、これに反する思想を持つことを禁止したりするものではなく、特定の思想の有無について告白することを強要するものということもできない。そうすると、本件職務命令は、これらの観点において、個人の思想及び良心の自由を直ちに制約するものと認めることはできないというべきである。」

「もっとも、「日の丸」や「君が代」に対して敬意を表明することには応じがたいと考える者にとっては、敬意の表明の要素を含む行為を求められることは、その行為が個人の歴史観ないし世界観に反する特定の思想の表明に係る行為そのものではないとはいえ、個人の歴史観ないし世界観に由来する行動と異なる外部的行為を求められることとなり、その限りにおいて、その者の思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面があることは否定しがたい。」

「このような間接的な制約が許容されるか否かは、職務命令の目的及び内容並びに上記の制限を介して生ずる制約の態様等を総合的に較量して、当該職務命令に上記の制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められるか否かという観点から判断するのが相当である。」「国歌は君が代であると法律で定められており、住民全体の奉仕者として法令等及び上司の職務上の命令に従って職務を遂行すべきこととされる地方公務員の地位の性質及びその職務の公共性に鑑み、公立高校の教諭であるXは、法令等及び職務上の命令に従わなければならない立場にある。これらの点から、本件職命令は、Xの思想及び良心の自由の制約を許容しうる程度の必要性及び合理性が認められるものというべきである。」

 

出題 予備試験択一H29