『happiness』

【24】孤独な王妃1

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 噂好きの侍女たちがささやく話題の一つに、王妃の寝室の秘密というものがある。


 王妃アナベル・ヴァッシュの寝室の奥にはついたてが置かれ、その向こうにはあやしげな祭壇やまじないの道具が並び、どこの馬の骨とも知れぬ少年まじない師が夜な夜なひとを呪って国を傾けようとしているらしい。


 そんな根も葉もない噂が真実だったと知り、男たちはむっと眉をひそめた。


 闇に紛れる黒装束の男たちは、静かに任務を遂行する。香炉から立ち込める甘ったるい煙と、祭壇の両端で揺れる蝋燭を吹き消し、まじないに関わる道具を全て部屋の外へ運び出す。空いた場所には、さもはじめからそこにあったように古い化粧台と衣装箱を据えた。


 床の上で子犬のように毛布にくるまっていた少年が、かすかな風の動きに勘付いて目を覚す。


「誰だ……っ!」


 あわてて起き上がり、懐の短刀を探る。しかし、それより先に男の一人が少年の脇腹を蹴り上げた。短いうめき声、息ができずにうずくまる。もともと血色の悪い頬はさらに青ざめ、恐怖に全身を戦慄かせた。


 男はまるで虫けらを見るような目で少年を見下ろす。まったく、なぜこんな薄汚い蛮族の餓鬼をそばに置くのか。王妃にはもっと立場をわきまえてもらわないと。


 嫌悪感に顔をしかめ、固い革の靴底で執拗に踏みつける。


「おい、音を立てるな」


「ちっ……わかってる」


 じっと耳をそばだててみるが、天蓋付きのベッドから聞こえる規則正しい寝息は変わらずに。


 ふんと鼻を鳴らし、用意していた厚い麻袋に少年を詰め込み、ただの荷物のように紐をかけて担ぎ上げた。


 王妃がひそかに飼う少年が一人消えたところで、誰も訝りはしない。むしろ害虫を疎ましく思っていた賢臣たちは、ほっと胸を撫でおろすことだろう。


 男たちは再び闇に消え、何も知らない王妃は一度寝返りを打ったきり、また深い眠りへと落ちていった。

 

 

 

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