次の日の服 夜選ぶ?朝選ぶ?ブログネタ:次の日の服 夜選ぶ?朝選ぶ? 参加中

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星屑ざわめく冬の夜、ようやく目覚めたヴァンパイアがクローゼットを掻き回す。

「なあ、黒猫。このジレとタイでいいかな。それともこっちかな」

引っ張り出した服を鏡の前であててみては、友人の黒猫に尋ねた。

「どっちでもいいんじゃない? それより、ブラウスのフリルがよれているわよ」

黒猫は興味なさそうに顔を洗いながら答えた。

「しっかり選んでくれよ。そろそろニーナ達が来る頃なんだ」

「だったら明け方、寝る前に選んでおけば良かったのよ」

どうせ夜の間、退屈を持て余してトランプで遊ぶか、熱いチョコレートを飲むかくらいしかすることもないのに。

若いヴァンパイアは焦りながら、しかし胸を弾ませながら、身支度を整える。

「今年でニーナは十七だ。きっと美人になってるぞ」

出会った頃は、まだ幼い子供だった。

ふわふわの金色の巻き毛がまるでモンブランのようで、思わず食べてしまいたくなるほど可愛らしい。

行商人の父に連れられて、この険しい山を越える途中に屋敷に迷い込んでしまったのだ。

父親はヴァンパイアを畏れたが、無邪気なニーナはその天使のほほ笑みを惜し気もなく振り撒いた。

ひとに愛されたことのないヴァンパイアは、ただそれだけで恋に落ちた。

「このランプを持っていくといいよ。獣や魔物が寄り付かなくなる」

山の主の家紋が入ったランプを、気前よく持たせてやる。

金の巻き毛の天使は、自分の髪に付けていた髪留めをはずしてヴァンパイアに渡した。

「おにいちゃん、ありがとう。これ、ニーナのたからもの。こうかんね」

「いいのかい? へえ、綺麗な石だね」

さっそく自分の髪に付けてみる。

黒髪に虹色が映えた。

「似合うかな?」

「うん、おにいちゃん、かわいいよ」

足元で黒猫が肩をすくめるのも気に留めず、嬉しそうに顔を緩める。

「お兄ちゃんじゃなくて、アレックスだよ。覚えて」

「あれっくす」

名を呼ばれると、身も心もとろけるような気がした。

親子は魔法のランプに感謝し、毎年山を越える時には会いにくると約束して麓の町へと旅立った。

それから年に一度、秋と冬の間の季節に二人は彼の屋敷を訪れた。

ある年は自家製のハム、ある年は出来の良いワイン、ある年は手編みのマフラーを土産にして。

孤独だったヴァンパイアは、満たされた。

「昨年はニーナがクッキーを焼いてきてくれたんだ。今年は何だろう」

しかし、土産物などは必要なかった。

ただ、会いにきてくれれば。

そわそわと落ち着きなく、門の前を行き来する。

「ねえ、北風。しばらく休んでいてくれないか。ニーナ達が風邪をひいてしまうだろ」

仕方ないねと北風はねぐらに帰って大人しく様子を伺った。

銀色の三日月は親子が迷わないように足元を照らす。

コウモリ達は主人に代わってニーナ親子を迎えに出かけた。

今か今かと待ち侘びているうちに、東の空が白くなる。

「……今年は梨の収穫が遅れているのかもしれないね」

アレックスは小さくため息をこぼし、タイをはずしてジレを脱いだ。

「待つことはね、苦痛じゃないよ。だって、約束があるからね」

熱いチョコレートをゆっくりと飲み、カードをめくる。

そうしているうちに、三年が過ぎた。

「ねえ、アレックス。もう待つのはおよしなさいよ」

黒猫は気の毒な友人に忠告した。

北風も三日月も、そのほうがいいと頷く。

しかし、アレックスは毎晩そわそわと服を選んでは、門の前で二人を待った。

「約束だから。大丈夫」

虹色の髪留めに触れると、また勇気が湧いてきた。

百年の孤独に比べれば、たった三年の待ちぼうけなど。

「僕たちは空想の生き物だから。僕が生きているということは、まだ忘れられていないってことだよ」

冷たい門に背をもたせかけ、薄くなった夜空を見上げた。

出会わなければ、甘い想いも苦い想いも知らないままだった。

恋するだけで、こんなに毎日が楽しくなるなんて。

灰銀色の瞳を閉じ、愛しい娘の姿を思い出す。

「ニーナ、会いたいよ」

門の上でまどろんでいた黒猫が、ぴくりと耳を動かした。

「いけない、アレックス! 夜明けが来るわ!」

慌ててマントの裾をくわえて走り出す。

「待って、もう少しだけ……」

アレックスは明るい東の空の下をじっと見つめた。

次第に朝日が姿を現す。

「何してるの!」

叫んだ声に聞き覚えがあった。

女はアレックスに駆け寄り、着ていたマントを脱いで頭からかぶせた。

豊かな金髪が溢れる。

「走って、アレックス!」

「……ニーナ?」

マントから顔を覗かせようとするのを抑え、とにかく屋敷に向かって走らせた。

重い鉄の扉を閉じると同時に、天窓から朝日が差し込む。

壁もテーブルも全て金色に染まる。

アレックスを暖炉の影に隠し、庇うようにしっかりと抱きしめた。

「ニーナ? 本当に、あの巻き毛のニーナなのかい?」

自分と同じくらいの身長の美しい女性に、食いつくように魅入った。

「約束を守れなくてごめんなさい」

ニーナは大きな瞳に涙を浮かべた。

「父が病気で倒れてしまって……ずっとあなたに会いにいかなきゃって思っていたの」

「嬉しい……嬉しいよ。会いたかったんだ」

朝日に当たったせいで、少し崩れた腕で抱きしめる。

やはり、その目には涙が浮かぶ。

これほど喜びに心が震えた日はない。

「お父さんの具合は?」

ニーナは静かに首を振った。

甘い香りが、髪からこぼれる。

「だから私、ランプを返しにきたの。もう、行商はできないから……山越えは必要ないから」

「そう……じゃあ、これ、返さなきゃ」

アレックスは悲しそうに髪留めをはずした。

いつも、一人ではないと勇気付けてくれた、大切なお守りを。

「その珊瑚の髪留め! まだ持っていてくれたの!」

「うん。僕の一番の宝物」

名残惜しそうに、ニーナの髪に付けてやった。

ニーナは髪留めと同じ色の唇を、そっとアレックスの唇に重ねた。

「大好きよ、アレックス」

「……でも、もう会えなくなるんだね」

「え?」

ニーナは体を起こし、きょとんとアレックスの顔を見下ろした。

「ここに置いてくれないの?」

「は?」

ニーナの荷物を運んできた黒猫は、お邪魔しましたと部屋を出ていく。

「ランプは返すって言ったでしょ。もう山を降りられないんだから、ここに置いてよ」

「な……え、まさか、それって……」

アレックスは目を白黒させて言う。

ニーナはもう一度くちづけ、永久の愛を誓った。

「あなたといられるなら、朝なんていらない」

すっかり拗ねた朝日は、雲の向こうに姿を消した。