技術的特異点前夜(シンギュラリティ) periscope -2ページ目

 

 

 

眠れないの?

うん
立て続けに死なれるとなぁ

父親は随分と前に亡くなった
少し前に母
会社の同僚
古い友人

布団から出て靴下を履いた
温かい服を着た

え?
出かけるの?

いや、煙草を吸うだけ
換気扇の下じゃなくて
ベランダに出て外の空気にあたりたい

唐突に言う
心は不思議だな
脳の容量は1300mlほどしかない
心はそのうちのどれほどを占めるのかな

でも
そんな小さな器は
色んな人を想って
世界に興味を持って
宇宙に思いをはせて
限りないほど大きな広がりを見せる
まるで果てがないようにさえ思える

そしてそれは
自分だけじゃなくて
君もそうなんだろうし
誰もがそうなんだろう

今日も寒いけれど風はない
雲も無い
きっと星が綺麗に見えるだろう

そう言って
窓を開けてベランダに出て
冷たい椅子に腰かけた

灰皿の蓋をあけて一服
空を見上げた

思っていたよりも沢山の星が見えた
思っていたよりも綺麗だった
思っていたよりも早くに身体が冷えてきた

ガラガラと窓が音を立てる
椅子の前に温かいマグカップが置かれた

耳に白い息
背中に温もりを感じた

もう一度顔を見上げて星を見た
さっきよりも滲んで見えた