やっぱり夫婦 | 一期一縁  人生で一度きりのご縁を大切に

一期一縁  人生で一度きりのご縁を大切に

地域包括支援センター職員のつぶやき

こんばんは、訪問ナース真紀です。

 

先日、亡くなられた利用者さんの

奥様がご挨拶に来てくださいました。

 

この方(仮にAさんとしましょう)とは

本当に短いおつきあいでした。

 

私が初めて訪問した時には、

すでに食事はほとんど食べられず、

一日の大半を横になって過ごしている、

そんな状態でした。

 

お会いしてすぐに、Aさんに

残された時間がわずかであることは

わかりました。

 

Aさんは、職人さんです。

そして、なかなかの頑固者です。

きっと、亭主関白で家のことを

すべて取り仕切ってきたのだと思います。

 

動くことさえままならない状態になっても、

奥様に頼ることなく、自分のことは自分で

なさっていたそうです。

見るに見かねて奥様が手を貸そうとしても

その手を振り払い、

起きているのがつらい状態になっても、

ゼイゼイして息が苦しくなっても、

寝たまま煙草を吸うほどでした。

 

そして、何かにつけては奥様に

八つ当たりしていました。

 

そんなAさん、私に対しても

なかなかお手伝いをさせてくれません。

 

「Aさん、お手伝いするのでお風呂に

入りませんかはてなマーク

「入らない!!

「着替えだけでもしませんかはてなマーク

「あとであやるからいい!!

「何か気になることはないですかはてなマーク

「ない!!もういいから帰ってくれ」

 

こんな感じで、看護らしいことは

何もさせてもらえないまま、

数日が経過しました。

 

私の予想通り、Aさんはどんどん

動けなくなり、あっという間に

亡くなってしまいました。

 

亡くなる日の昼間、

私が最後に訪問させていただいた時、

意識もうろうとしているAさんに

「髪の毛洗わせてもらってもいいですかはてなマーク

そう訊いてみました。

 

いつもなら「やらなくていい!!」と

言われるところですが、

その日は返事がありません。

「返事がないということはいいってことですね」

と私は都合よく解釈し、シャンプーをさせてもらいました。

 

おそらく、最後にお風呂に入ったのは

一週間か10日くらい前のはず。

久しぶりにシャンプーをしたAさんは、

さっぱりとして若返ったように見えました。

「また来てもいいですかはてなマーク

と声をかけると、ちいさくうなづいてくださいました。

そのわずか数時間後、Aさんは

静かに息を引き取りました。

 

自宅での看取りに関わらせていただいた中で、

これほどまでに、何もお手伝いできなかったことは

いまだかつてありませんでした。

 

自分の無力さを感じたケースでした。

 

奥様が

「皆さんに来てもらえて、本当にうれしかった。

大変な思いをさせちゃったわね。

最後にシャンプーまでしてもらえて、

本当によかった。

あんなに喧嘩ばかりしていたのに、

いなくなってみると、なんだか

変な感じがします。

まだいるような気がして・・・」

そうおっしゃいました。

 

 

きっと、ご夫婦には他人にはわからない

長い歴史と、いろんなことがあったでしょう。

 

まもなく人生を終えようとしてる時でも

言い争ったり、喧嘩をしたり・・・

それでも、やっぱり長年連れ添った二人。

どこかで、お互い支え合っていたのでしょうね。

 

 

本当はもっとおふたりといろんな

話がしたかった。

Aさんが大好きだったという

音楽の話、ギターの話、

そしてAさんの人生観など、

いろいろ聴きたいことがあったけれど、

時間が足りませんでした。

もっと清拭をしたり、シャンプーも

してあげたかった。

 

「なにもしてあげられない」

そんな想いが大きかった私ですが、

最後の最後にたった一度だけ

シャンプーできたことは

私の心も軽くしてくれました。

 

これで、私自信も救われた気がします。

 

やっぱり、私は利用者さんや

ご家族に支えられているなあと

改めて感じました。

そんな環境で働けること、

とても幸せなことだと思います。

 

こうしてひとつひとつの出逢いや別れが

私の糧になっているように思います。

 

Aさん、あちらに行ったら

大好きなギターや盆栽、

思う存分楽しんでくださいね。

ありがとうございました。