もう何も聞きたくない。
あまりに忘れすぎたんだと思う。
582#6
耳を澄ましなさい。
おそらくあなたは、
完全には忘れ去られていない
往古の状態をかすかに思い出すだろう。
それは朧げなものかもしれないが、
まったく馴染みのないものではない。
まるで、とうの昔に
題名を忘れた歌のようであり、
あなたはそれをどこで聞いたかも
少しも覚えていない。
その歌の全部ではないが、
特定の人や場所や物などに
不随してはいない旋律のほんの一部が、
あなたと共にとどまっていた。
それでも、このほんのわずかな断片から、
あなたはその歌の麗しさや、
それを聞いた時のすばらしい情景や、
その場に居てあなたと共に
それを聞いた者たちを
自分がどれほど愛していたかを、思い出す。
