等間隔で配置された橙色の街灯が狩野川の川面に映ると、まるで松明が命を宿して、その夜の限られた数時間を惜しむかのようにゆらゆらと瞬いて、真っ黒に塗られた狩野川のキャンバスに彩りを与えていた。大理石できれいに整備された河川敷の階段に腰をおろしていた京子は、その光景に口元がゆるんで、ついあどけない表情になっていた。仕事の時には決してみせない、落ち着いた笑顔。彼女の心は今、とても凪いでいた。
川面に投影された御成橋や、マンションや、立体駐車場の影をふと逆さまの視点で凝らすと、あたかも漆黒の海底に、太いコンクリートの支柱を何十本も建てた広大なハイウェイや、弱々しい光を携えた摩天楼が息を潜めて浮かんでいるような錯覚を覚える。まるで川中を何10mか潜った先には、遥か昔天変地異により水没し、それ以来永久に、人々に忘れ去られた古代都市が眠っているかのようだった。死の気配以外は何も感じさせない幻影の都、エルドラド。さきほどまでの心穏やかな感情は、川上から吹く風と共に過ぎ去り、京子は心地の良い薄気味悪さに身を震わせた。この川では、夜がすがたを現す度に、こんな幻想的な物語がいつも語られていたんだ。そう、月出づる宵の日に限られた、誰にも気づかれない千夜一夜物語。京子はその物語に出会えたことがとても嬉しく、今自分がいる場所が地球であることをしばし忘れた。
ここにいると、自然に考えかたも自由になる。想像力に限界はないよと、喉をなでる心地良い五月の夜風が教えてくれた。
「ナイトクルージング。」
京子はなぜかふいに、その言葉を呟きたくなった。
続く
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