第7章 韓国ドラマ映画
278.映画 ソウルの春
今朝のKBSニュースで、映画『ソウルの春』がアカデミー賞外国映画賞の韓国代表候補に選定されたとの報道が有りました。
この近年稀に見る傑作、是非『パラサイト』の後嗣としてアカデミー外国映画賞と言わず『アカデミー賞最優秀作品賞』を獲得して頂きたいと思います。
2024年8月23日、満を持しての日本ロードショー公開を受け、私も我先にと鑑賞を終えましたが、どう書いたモノか思い悩み中々映画レビューを書けずに居たこの映画『ソウルの春』ですが、とうとう勇気を振り絞って書き記すこととします。
今回鑑賞後、何故すぐさまレビューを書けずに居たかと言うと、やはり映画のスケールが大き過ぎて、キチンとイメージが掴めるまで勉強をしないと中途半端な文章に陥ってしまう恐れが有ったせいです。
それ程に実際の1979年『12.12粛軍クーデター』は韓国のその後の歴史にインパクトを与えた大きな事件だった事、そしてその大事件を真正面から描いたこの映画が稀に見る大きなスケールの映画で有る事を意味します。
この文は私なりに、曲がりなりにも下勉強もようやく終わりレビューを書けそうかな?と思った…と言うよりも上記ニュースにより締め切りに追われ、尻を押されたと言う面が否めません(笑)。
この映画、題名は『ソウルの春』ですが、ご存知の通り内容は正反対、その「ソウルの春」を無残にもぶっ潰した全斗煥チョン・ドゥファンによる『12.12粛軍クーデター』を描いた映画です。
なので主役は希代の悪人チョン・ドゥファンをモチーフにしたファン・ジョンミン演じるチョン・ドゥグァンです。
実際、エンドロールでもトップ俳優はファン・ジョンミンでした。
しかしその悪人に最後まで抗(あらが)ったチャン・テワンをモチーフにした人物イ・テシンを演じたチョン・ウソンが主演にも見えます。
この人物イ・テシン。
余談ですが、他の登場人物は実際のモチーフの人物と名前が似て居ますが、この人物の名前だけ毛色が異なります、似て居ないのです。
コレは豊臣秀吉の侵略に最後まで抗った我が国救国の英雄リ・スンシン李舜臣将軍をもじったとウワサされて居ます。
イ・○シンで、○の中にチャン・テワンのテを入れたと言うのです。
実際、映画でのチョン・ウソン演じる彼の姿はたった12隻の戦艦で敵に立ち向かったリ・スンシンのミョンリャン鳴梁海戦前の姿を彷彿とさせます。
そして、ドキュメンタリー映画の様な一部フィクションを交えた「ファクション(ファクト史実➕フィクション)史劇」映画と言う事で史実の重みを噛み締めさせます。
ついでなので、こんがらがりやすい登場人物と演者、実際のモチーフの人物を整理してみましょう。
映画登場人物・(演者)・実際の順です。
チョン・ドゥグァン전두광(ファン・ジョンミン):チョン・ドゥファン전두환
イ・テシン이태신(チョン・ウソン):チャン・テワン장태완
チョン・サンホ정상호(イ・ソンミン):チョン・スンファ정승화
キム・ジュンヨプ김준엽(キム・ソンギュン):キム・ジンギ김진기
ノ・テゴン노태건(パク・へジュン):ノ・テウ노태우
その他の出演者の方々は専門俳優さんが多いので(主に悪役)、名前が分からなくても大体役割が類推出来、分かりやすいです(笑)。
史実の12.12粛軍クーデターはパク・チョンヒの私設親衛隊組織だった『ハナ会』を率いる保安司令官チョン・ドゥファンと友人の第9師団長ロ・テウらが陸軍参謀総長だったチョン・スンファを不法に拉致監禁し、最後まで抵抗した首都警備司令官チャン・テワンを振り切りソウルを制圧した将校たちによる軍事クーデターです。
私が高校1年生の頃、パク・チョンヒがキム・ジェギュにより暗殺され、すわ民主化か?と国内外で胸躍りましたが、一夜にしてチョン・ドゥファン率いる将校たちによる「『粛軍クーデター』が起こり民主化運動が弾圧された」とだけ知らされ、一転奈落に突き落とされました。
もちろん詳しいことはトンと分からず蚊帳(かや)の外に置かれた我々在日コリアンはとても悔しい思いをさせられました。
当時何が有ったのか詳しくは知らされないまま『5.18光州民主化抗争』弾圧まで突っ走って行ったイメージが有ります。
『粛軍クーデター発生』と言うたった一行しか知らされなかったのです。大体の内容から類推するしか有りませんでした。
その悔しさ、虚しさは韓国・ソウルに住む人たちにはとりわけ強かった事でしょう。
今回メガホンを取ったキム・ソンス監督も当時高校3年生、たまたまその日12月12日、家を出る用事が有ったそうで、遠くに聞こえる銃声と戦車の音を聞き、何事かあるんだろうか?と訝(いぶか)しんだが特に何も起こらなかった(つまり知らされることは無かった)と、映画パンフレットに記して居ます。
大人になって回顧録などにより徐々に知らされた当日の内幕に愕然とし、どれだけ悔しい思いをしたか分からず、いつか必ず作品として描きたいと誓ったそうです。
監督のそんな複雑な想いがこもって居るのか韓国での公開日が奮って居ます。
曲がりなりにも国民に謝罪をして国葬に付されたロ・テウ盧泰愚と異なり、最後の最後まで謝罪もせず、5.18光州民主化抗争の真相をも語らず逝ったチョン・ドゥファンが亡くなったのが2021年11月23日。
ちなみに家族葬で今も墓地が決まらないと聞きます。
今回の映画が製作されたのが2023年2月から7月で、映画公開がチョン・ドゥファンの3回忌の命日、2023年11月22日。
偶然にせよ、製作陣のチョン・ドゥファンへの言い知れぬ執念にも似た怨念を感じるのですが、私が深読みし過ぎでしょうか?
周知の様に、232.5億ウォン(約23.2億円)もの製作費を掛けたこの映画、韓国でビッグオフィス$97,476,565(約140億円)を稼ぎ出し、観客動員数13,127,990名で韓国上映映画歴代9位に躍り出ました。
近年の高物価、不況による映画興業成績の悪化の深刻さが懸念されて居る韓国映画界に於いてまさに救世主とも言える異例の大ヒットになりました。
ココで概要を。
韓国で2023年観客動員数ナンバーワンのネガヒット!
国の運命を変えた事件に
怒り打ち震えた国民の4人に1人が鑑賞!
今日「粛軍クーデター」「12.12軍事反乱」などとも言われる韓国民主主義の存亡を揺るがした実際の事件を基に、一部フィクションを交えながら描かれる本作。
韓国で公開されるやいなや、事件をリアルタイムで知る世代はもちろん、事件を知らない若者たちの間でも瞬く間に話題となり大ヒットスタート。
独裁者の座を狙う男チョン・ドゥグァンへの激しい怒りと、彼に立ち向かったイ・テシンへの共感に、心をそして魂を揺さぶられた観客たちの世代を超えた熱量に支えられ、最終的には国民の4人に1人が劇場に足を運び、『パラサイト 半地下の家族』などを上回る1,300万人以上の観客動員を記録。
コロナ禍以降の劇場公開作品としてはNO.1(2024年3月末日現在)となる歴代級のメガヒットとなった。
この荘厳な歴史大作にして圧倒的緊迫感に満ちた至高のエンターテインメントを作り上げたのは、国内外の映画ファンから熱烈な支持を集めるノワールアクション『アシュラ』などで知られる名匠キム・ソンス監督。
同作でもタッグを組んだ2大スタ―、ファン・ジョンミンとチョン・ウソンを再び主演に迎え、文字通りの歴史的傑作を誕生させた。
(引用 公式サイト)
次にストーリーを。
クーデターを起こした権力の亡者に、一人立ち向かった信念の男
ソウルに銃声が響き渡った日–
あの夜の戦いで、本当は何が起きていたのか?
1979年10月26日、独裁者とも言われた大韓民国大統領が、自らの側近に暗殺された。
国中に衝撃が走るとともに、民主化を期待する国民の声は日に日に高まってゆく。
しかし、暗殺事件の合同捜査本部長に就任したチョン・ドゥグァン保安司令官(ファン・ジョンミン)は、陸軍内の秘密組織“ハナ会”の将校たちを率い、新たな独裁者として君臨すべく、同年12月12日にクーデターを決行する。
一方、高潔な軍人として知られる首都警備司令官イ・テシン(チョン・ウソン)は、部下の中にハナ会のメンバーが潜む圧倒的不利な状況の中、自らの軍人としての信念に基づき“反逆者”チョン・ドゥグァンの暴走を食い止めるべく立ち上がる。
(引用 公式サイト)
周辺バナシを長々と語ってしまったので感想は手短に。
語り始めると様々な断片が思い浮かび、まとまりが付きませんが、第一に映画館の大画面で鑑賞して大正解と言う点。
韓国でもドルビーシステムの4DXでの鑑賞を推奨して居ましたので、1インチでも大きな画面で視聴するべきです。
次に、世紀の極悪人チョン・ドゥグァンを演じたファン・ジョンミンの演技力と憎々しいキャラクター造形に脱帽。
悪人が勝利する珍しい映画ですが、彼のカメレオンの様な飄々としたキャラクターに、観客は激しい侮蔑と憎悪で鑑賞を終える事間違い無しです。
ちなみにファン・ジョンミンは賞運の無さから「韓国のディカプリオ」との異名が有るそうですが、今回ペクサン演技大賞を見事獲得しました。彼の一番の代表作となることでしょう。
そしてチョン・ウソン。
以前の映画『ハント』にも似た役割の彼が勇敢で愚直、そして負けるかも知れぬ戦いにも果敢に挑み、最後の最後まで諦めず闘う姿がまるで上記のリ・スンシン李舜臣を想起させ、映画上映中に観客は救われ、そして大きな哀しみと悔しさに襲われることまた然(しか)りです。
他にも正義を追い求めるキム・ソンギュン、カメオ出演ながら強い印象を残すイ・ジュニョク、チョン・へインなど多くの見どころが詰まって居ます。
この映画を観ずして現在の韓国映画のレベルを語れません。
是非ともお見逃しの無い様に。
記したいことは尽きませんが、コレにてひとまず、取り留めの無い断想を書き終えます。
アカデミー賞外国映画賞及び作品賞受賞を心より祈りながら…