第7章 韓国ドラマ映画
276.映画リバウンド
 
 
この映画、弱小高校のバスケ部員たった6人で全国大会準優勝を勝ち取ったプサン高校バスケ部のミラクルな実話を忠実に描いた、言わば「リアル・スラムダンク」です。

 

 

余談で、他のレビュアーの方のパターンは知りませんが、私のレビュー記事執筆は映画鑑賞後、映画パンフレットを含め映画に関連する資料を必死に読み漁る事から始まります。
早ければ半日、遅いと前回観た『ラブリセット』の様に3〜4日掛かる事も有りますがそれはあくまで例外です。
普通は丸1日ほど過ぎると大体の関連記事は読み終わりイメージが湧きます。
イメージが固まればもう「しめたもの」で、後はまっしぐらにスマホに向かって指をピコピコ動かすのみです。

 

 

ココでひとつ問題は、映画について私自身が気になる部分に出くわすとその件についてどうしても深掘りしたくなり、トコトン追求してしまう点です。
それを人は「ハマる」と言いますか?
元来性格が学者タイプで、疑問について知らない事がイヤなのでついつい追求してしまうのですが、ハマり易い性格とも言えます。反面熱し易いくせに冷め易いのも特徴なのが困りモノなのですが(笑)。

 

 

今回の映画鑑賞後、気になり追求したのはこの映画『リバウンド』の韓国での興行成績についてでした。
この件について私自身イメージが大体出来上がったのでこうしてレビュー記事を執筆して居るワケですが、その部分についてはレビュー記事としてはシラケてしまう面も有り、後に述べる事とします。
 
毎度のどうでも良い前置きはさて置き、そもそもこの映画、観に行く事になったのは全くの「衝動買い」ならぬ「衝動鑑賞」でした。突然観に行こうと決めたのです。

 

 

本来なら『オッペンハイマー』かキム・ソンホの『貴公子』でも観ようとしたのですが、2作品とも暗そうで、コレ以上暗い人間になりたくなかったのでパスしましたが、2〜3日前に偶然このタイトルをスマホで見つけ、『愛の不時着』で目立ったイ・シニョン『マスクガール』アン・ジェホンが出るし、スポーツ物だし、たまには軽〜くスポーツ映画でも観るかと思い立ち、渋る家内を何とか説き伏せ鑑賞に漕ぎ着けたと言う次第です。

 

 

スポーツ物と言うと、サクセスストーリー&感動のお涙頂戴モノだと容易に想像付きますが、最近乾いて干からびた状態なのでたまには水分を与えるのも良いのでは?と。
 
結論から言うと観てとても良かったです。

 

 

ココでまずは概要を。
 
2012年、指導経験のない新人コーチの下でわずか6人の寄せ集めの選手が、全国大会で予想を覆す快進撃を続けて韓国中に驚きと感動を呼び起こした奇跡のような実話を映画化。
公開時は人気アニメ『THE FIRST SLAM DUNK』など話題作が並ぶなか、前売り券売上げ率で堂々の1位を記録。
 
“リバウンド“とはミスをチャンスに変え、失敗を成功に導くこと…まさに弱き者たちの逆転の物語を韓国のヒットメイカーたちが作った躍動感あふれる映像と迫力の試合シーンとともにシンクロ度120%で描いた本作。ついに日本のスクリーンを席巻する。

 

 

カン・ヤンヒョンコーチ役は、『狩りの時間』や「マスクガール」などで注目を集める実力派アン・ジェホン。
バスケ部のエースのチョン・ギボム役は「愛の不時着」で注目され、「浪漫ドクターキム・サブ3」「魅惑の人」など活躍が続くイ・シニョン。
彼の仲間だったが仲違いしたペ・ギュヒョクを、ボーカルグループ「2AM」のメンバーとして知られるチョン・ジヌン、「偶然見つけたハル」や「コッソンビ〜二花院の秘密」などで日本でも人気上昇中のチョン・ゴンジュが迫真の試合シーンで映像を魅了する。
(引用 公式サイト)

 

 

次にストーリーを。
 
バスケットボール選手出身カン・ヤンヒョンは突然、廃部の危機に瀕した釜山中央高校バスケットボール部の新任コーチに抜擢される。
寄せ集め部員を引き連れて、初試合に挑むことになるが、対戦相手はなんと高校バスケットボール界の最強校だった。
チームワークは崩れ、結果は惨敗。学校側はバスケットボール部解体まで議論しはじめ、部員もバラバラになってしまうのだが…。
(引用 公式サイト)

 

 

実は今回、映画鑑賞で久しぶりに涙があふれました。ボロボロ泣きです。
途中からウルウルし始め、何回か涙目になりましたが、最後に本物の選手の写真がオーバーラップされる場面でボロ泣き。
(あ、コレはホントの話しなんだ、モデルが皆んなキチンと居るんだ。)と思うと尚更込み上げて来てボロボロ涙があふれました。
場内が暗いので家内を含め他人にバレないのが良いです。
 
不思議と、感動で泣くってドラマでは余り無いです。映画の方が泣ける気が。
ドラマで感動を貰い涙したのは『紳士とお嬢さん』『私たちのブルース』くらいかもです。
 

 

『紳士とお嬢さん』は子役の迫真の演技に涙しましたが、途中から「マクチャン」ドラマに成り下がり、騙された気分になってしまったので、全編を通して泣けたのは正確に言うと『私たちのブルース』のみです。

 

映画では『モガディシュ脱出までの14日間』『チャサンオボ玆山魚譜』など幾つか有りますが久方ぶりです。
最近、私生活でも虚しさや儚(はかな)さなどがふと込み上げる事もしばし有り、殺伐としたドラマに夢中になってかじり付いている事も有り、涙に飢えて居る部分が有るのでしょう。

 

 

感動した後、この映画、果たしてドコまでが真実でドコからがフィクションなんだろうと気になり始めました。そして散々調べましたが、概要にも有る通りほぼ全部真実だと知りました。
映画よりもドラマチックなストーリーと言う事で韓国では超有名なお話しなんだとか。
そして映画化にあたりトコトン当時の再現にこだわったそうな。
 
例えば主人公たちの通うプサン中央高校の校門も10年前当時のモノを作り替えたと聞きます。そこまでする必要有る?と日本に居る素人の我々は思いますが、細かいディテールまでこだわるのが韓国エンタメの特技。
聞けばオーディションでも各選手の体格などにこだわって選抜したそうで、監督役のアン・ジェホンに至ってはシンクロ率90%だそうです。

 

 

監督はチャン・ハンジュン監督ですが、奥さんがドラマ『シグナル』『キングダム』『悪鬼』などの人気作家キム・ウニ作家です。「韓国で夫として一番成功した夫」と言う少々イヤミ掛かった異名で呼ばれるそうですが、今回彼女も脚本を手伝ったそうです。聞けば監督自身は6年ぶりにメガホンを取ったとか。
感動の実話を映画化する事を思い立ち動き始め、しかし投資が集まらず10年掛けてやっと実現したそうで、裏話を語るだけでもキリが有りません。

 

 

他にも映画関連、映画の題材になったプサン中央高校の実際のお話しなど語りたい事は尽きないのですが、気になるのは初めに書いたこの映画『リバウンド』の韓国での興行成績についてです。
 
制作費総7億円、損益分岐点約160万人でしたが、残念ながら699,243人と惨敗でした。
コレ程の、映画を素で行く稀有な題材で何故ヒットしなかったんだろうと言う疑問が湧いて来ます。
こう言うネガティヴなお話しは、私のレビューが商業誌などに寄稿する記事で有れば書くことが出来無かったでしょうから幸いと言うべきかも知れませんが、1人でも多くの人に観てもらうべく書く文章と言う意味ではマイナスかも知れません。

 

 

ヒットしなかった原因を簡単に述べると、正しく『リバウンド』映画公開直前に公開され韓国でも大ヒットしたアニメ『THE FIRST SLUMDANK(スラムダンク)』に比べ必ず観なくてはいけない「必然性」に欠けたと言う評価です。
韓国では知らぬ人の居ないプサン中央高校のミラクルは巷間良く知られて居るので、ただ忠実に再現するだけで無く、映画館に訪ねて行こうと思わせる動機付けが重要だと言う事。

 

 

映画大国と呼ばれる韓国で、映画視聴者は世界で最も眼の肥えた視聴者とも言われて居ますが、コロナで消費行動が変わったと言われて居ます。
物価高騰、チケット代金の高騰により中間層が減り、ライト層やハード層はよりコスパの良い映画に集中する傾向があると言うのです。

 

 

具体的に言うと『犯罪都市』シリーズの様なヒットシリーズ物、『ソウルの春』の様な口コミが口コミを呼ぶ様な想像出来ない体験が出来るメガヒット映画に惹かれて行くと言います。
逆にそれ以外の秀作はことごとく観客数が伸びず惨敗する傾向が続いているとか。
 
今回の『リバウンド』もまさしく多くの作品同様、コロナ禍を終え制作が多くなり過ぎた為に尚更ヒット作が出ない構造に陥ってしまって居ると言う現在の「韓国映画界の危機」のあおりをモロに受けてしまったキライが有ります。

 

 

他にも、プサン中央高校がミラクルを成し得た理由と原因を映画で描き切れなかったと言う批評を眼にしました。
確かに映画では「精神論と根性」に比重が置かれ過ぎて、描き方が浅かったとも言えます。バスケットを知る人間、知らない人間双方を満足させるのはとても難しいですが、そう言った深い部分で差別化すべきだったのかも知れません。
総じて、世界的に最も眼の肥えた観客で有る韓国の観客を満足させられなかったと言う事でしょうか?

 

 

あと、韓国では日本とは比べモノにならない程、口コミが重要だと聞きます。
上に挙げたそんなこんなワケで、口コミを集め切れなかった事も敗因に挙げられるのでしょう。
 
しかしながら、ロードショー終了後、OTT(配信)開始するや3週間の間トップを走ったと言いますから、やはりコロナ禍以降の韓国視聴者の消費行動の変化が一番大きいのかも知れません。

 

 

コレ程に凝った映画がヒットしなかったのはとても残念に思います。
せめてプサン中央高校のミラクルな事実を知り得なかった日本での公開で多くの方に観て貰えると嬉しいと思いました。
4月26日公開開始ですからまだ時間が有ります。
私の様に第2、第3の人生を歩いて行こうと必死にもがいて居る者たちに勇気を与えてくれる良質な作品です。
機会が有れば是非ご鑑賞を。

 

 

<参考文献>
'리바운드'는 왜 '슬램덩크'가 되지 못했나 [TEN스타필드]
영화리뷰한국판 슬램덩크? 아쉬운 평가받는 이유, <리바운드>리뷰
동아일보 장항준 “영화 ‘리바운드’ 흥행 실패…아내 김은희 작가·딸과 펑펑 울었다”
 
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