<映画 王になった男>

 
ワンポイントコラム
<韓国朝鮮 歴史のトリビア>
256.オンドル温突
 
 
 
 
KBSワールドの人気プログラム『韓国人の食卓』でオンドルを取り上げて居ました。
今では世界的に有名で、ハングル、キムチ、マッコリ、テコンドーなどとともにオックスフォード辞典にも載り国際語として認められ、国際標準化機構(ISO)によって国際標準案として採用されるほど優れた技術で有る朝鮮発祥の暖房設備「オンドル温突」
今回はコチラについて見たいと思います。

 

 

オンドルの元の言葉は『クドゥル구들』です。
固有語で「焼いた石クウントル구운 돌」や床の火が通る通路「クル穴굴」に由来したと言われるクドゥルは朝鮮王朝時代になって漢字語化され、「オンドル温突」という言葉で表記され始めました。

 

<青銅器時代の遺跡>

 

朝鮮では古くは新石器時代から青銅器時代にかけてオンドルの原型になった設備が使われた事が遺跡によって明らかになって居ます。
なので少なくともオンドルの起源を5000年前まで見る事が出来ます。

 

<5世紀 高句麗遺跡出土物>

 

中国文献でも高句麗で使用された事が確認出来、新羅、渤海に於いても使用された事が遺跡を通じて確認出来ます。

 

<渤海遺跡>

 

現在のオンドルは高麗時代、12〜13世紀には完成を見たと言います。
この頃は主に老弱者用で、部屋全体では無く一部を暖めるタイプだったと言いますが、次第に一般家庭に普及されて行き、全面を温める方式になって行きました。

 

<高麗時代の遺跡>

 

朝鮮王朝時代に於いては椅子を使った立式文化がメインだった両班家庭よりも、座式文化だった一般庶民の家庭にいち早く導入され、徐々に士大夫の家庭にも普及、1624年(仁祖2年)には王宮がオンドルへの全面改良を完成するなど、一般化して行きました。
特に小氷河期と呼ばれる16〜17世紀に全国で現在我々が伝統的オンドルと呼ぶオンドル形式が全面的に普及されました。
 
<伝統オンドルの暖房原理と構造>
 
伝統的なオンドルは、『アグンイ아궁이』と呼ばれる「炊事場」部分で熱くなった空気が『コレ고래』と呼ばれる通路を通り過ぎ、この時、床(クドゥル場)が高温の空気の熱を受け室内に放熱、煙突を通じて煙を逃す形式です。
 
これは今でこそ世界的な暖房として床暖房として改良され、導入されて居ますが、前近代に於いては画期的な暖房設備でした。

 

まさに世界的にノーベル賞物と言われる『オンドル温突』は何故朝鮮で発明・普及されたのでしょうか?
 
まず、オンドルが朝鮮でこれ程に普及された要因としては朝鮮半島の気候が大きく関連して居ます。

 

 

朝鮮も日本同様四季がハッキリして居ますが、太平洋気候の影響を受け、冬でも厳寒となる地域が北海道など一部地域に限られる比較的温暖な日本とは違い、大陸性気候の影響を大きく受ける朝鮮は夏と冬の気温差が50度を超える過酷な気候となって居ます。
 

<ドラマ 秘密の門>

 

ソウルでも8月には30〜40度近く気温が上がりますが、12月に零下10度を下回る事が珍しく無く、1番寒い2月には零下20度以下を記録します。
つい先日も12月のソウルでマイナス28.6度を記録してニュースになりました。

 

 

両国とも夏は湿気が多く冬は乾燥しがちですが、気温差の少ない日本では主に夏の湿気対策がメインになり、冬でもさほど寒さを感じ難い畳部屋では、火炉を点ければ凌げます。
なので新羅時代、オンドルは日本にも紹介されましたが、普及には至りませんでした。

 

 

反対に朝鮮では夏の暑さは伝統的な立地「背山臨水」つまり「水に近く裏に山を抱える事で風がこだまする立地」に構える事で凌ぎ、主眼は冬の厳しさに備える作りにならざるを得ませんでした。

 

 

余談ですが、日本でも農村で多く見られた藁(わら)葺き屋根も朝鮮の時代劇で見慣れた風景ですが、風通しが良く暑さ対策に一役買って居ると言います。
 

我が国でオンドルが発明され普及された要因として、古くから庶民が座式文化だった事とも関連性が有ります。

 

火を得て扱う上で岩を利用して扱う事を覚えた庶民たちは座式文化だった為、現在のオンドル文化に通じるクドゥル文化を育てました。

 

<オンドル普及以前の朝鮮住居>

 

オンドルが朝鮮国内全域に普及される前提として、火事を誘発しやすい為、建物の基礎と壁の中心部分は石や土で作られる事になりました。
この様に開口部(戸や窓)をなるだけ小さく少なくして、部屋もなるべく小さく、基礎から壁の中心部分まで石や壁土で固める朝鮮家屋の基本が出来上がりました。

 

<椅子での生活だった朝鮮王朝以前>

 

そして高麗時代まで主流だった椅子を使う立式文化が影を潜め、床に直(じか)に座る座式文化が主流になり、箪笥やドアノブなど、座式文化用に低い形に改良されて行きました。
 
付け加えるならば、炊事場でいつも火を絶やさない事から朝鮮独特のクク(汁:スープ)文化が発達しました。

 

<典型的な韓屋の部屋>

 

万能に見えるオンドルですが、問題点や副次的な問題が無い訳では有りません。
 
まず、伝統的オンドルは温度の調整が難しく、冬でも床は高温で、顔などの部屋の上部部分などは寒いと言う問題が生じます。

 

<2階建のオンドル>

 

旧韓末に我が国を訪れたイサベラバード・ビショップをはじめとする西洋人探検家がその紀行文で吐露して居る様に、冬でも30度近くの灼熱地獄の部屋は家ダニや害虫の宝庫で、彼らは一晩中悩まされる事になりました。

 

<イサベラバード・ビショップ>

 

また、外気と室内気温の違いは現代でもヒートショックを起こしかねない、危険な状況を作りがちです。
 
夏でもアグンイを炊き続けなければならない為、夏は別に炊事場を設け、寝床を別にするなど手間が掛かります。

 

 

そして何より、人々が構造的にオンドルの無い2階屋の建築を嫌い単層の家を選好する事により、朝鮮の伝統家屋「韓屋」の発展を阻害しました。
文献に高麗時代には10軒に1軒は2階建の家屋が有ったと有りますが、朝鮮王朝時代にはソウル雲従街や一部の六曹の建物を除き、殆どが単層の家屋でした。

 

<2階建の韓屋>

 

ちなみに技術的には2階にもオンドルを取り付ける事は可能で、一部取り付けた建物が存在します。
しかし、煩雑さから単層を好む文化が定着しました。

<伝統オンドル様式>

 

これは現代においても一戸建てを好む世界の趨勢とは異なり、珍しく韓国で一戸建てよりも高層建築、つまりマンションを選好する大きな理由となって居ます。

 

 

そして、副次的な問題として、オンドルの材料として薪の需要が急増し、高熱費の高騰をもたらし、旧韓末には山林資源破壊が極まり、朝鮮の山が「禿げ山」になってしまった点などが有ります。
このおかげで、我が国は長い事、山林問題で苦しむ事になりました。

 

<禿げ山になった朝鮮山林>

 

また、床のひび割れなどにより、薪の代替品としての石炭、練炭による一酸化炭素中毒が1960年代まで絶えず、社会問題を引き起こしました。
 
現在では温水暖房式オンドルが全面普及し、日本の床暖房同様、クリーンな温度調節付きの現代式オンドルが南北とも主流になって居ますが、空気が乾燥し易く加湿器が欠かせないなど、注意が必要です。

 

 

オンドルが標準装備の韓国では、一部裕福な建築に限られる「部分床暖房」を使用する日本と異なり暖房費は抑えられて居ます。
また、オンドルの標準化によりスラブが厚い為、日本のマンションで問題になる騒音問題も少ないと言います。
ただし、古いマンションでは漏水問題がしばし発生するのが難点だと言います。
 
現在では換気式オンドルが開発されるなど、韓国では日々技術革新がなされて居ます。

 

 

現在では世界的にもオンドル発祥の床暖房が人気で、様々な技術改良がなされて居ますが、
メリット・デメリットを抑え、今後より発展して行くと良いです。

 

<現代式オンドルの仕組み>

 

 

 

<参考文献>
[온돌의 특징] 선조들의 지혜가 담긴 온돌의 과거와 현재
온돌의 역사 : 언제부터 온돌을 사용했나? + 헐벗은 민둥산
[스크랩] 온돌의 역사
나무위키
 

 

<ドラマ 根の深い木>