ワンポイントコラム
<韓国朝鮮の歴史トリビア>
237.衙前아전アジョン・ソリ署吏서리・リバン吏房리방
DVDレンタルした「緑豆の花」を目下視聴中ですが、実に骨太のドラマです。
是非ご覧になって頂きたいです。
朝鮮王朝末期を描いて居るだけにシリアスで、現代劇の舞台を史劇に代えただけのファンタジー史劇・ロマンス史劇とは一線を画して居ます。
私が観るに於いてもレビュー記事を書くに於いても申し分無いドラマで、評論家が絶賛しただけ有りますが、唯一、視聴率が奮わなかったのが残念です。
朝鮮王朝末期の甲午農民戦争を描いて居るだけに、最終的に「敗北した」と言う、ファンタジーにはならない現実が横たわっており、現在の韓国一般市民に受けないと言う事は良く理解出来ます。
日本の幕末物との違いが際だって居ます。
主人公のリガン(チョジョンソク)はリバン吏房を運営する衙前アジョンの息子として、父親の悪事に染まり切れず農民軍に加担する存在として描かれて居ます。
以前、我が国の民衆が貧しく、生活が苦しかった理由について書きましたが、まさしく彼ら衙前アジョンとリバン吏房の存在が有りました。
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今回はその衙前アジョンとリバン吏房について見る事にします。
衙前アジョンは中央・地方の官庁で実務を担当した中人階級の下級官吏を指す名称です。
ソリ胥吏、リソク吏族とも呼ばれた、世襲の官吏でした。
リバン吏房とは地方の官庁を指します。
中央官庁で働く人はキョンアジョン京衙前と呼ばれ、地方官衙で働く人々はウェアジョン外衙前と呼ばれました。
高麗時代に地方豪族たちが国家機関に吸収され、一種の下級役人として代々世襲でその地位を継ぐ様になりました。
彼らは税徴収などの実務を見たり、地方官庁の軍官の下で罪人を逮捕したり、行政全般を請け負いました。
高麗時代まではある程度権限が有りましたが、高麗末期から中央の強力な統制を受け、地位が激しく下がりました。
彼らの1番の問題点は、碌封(給料)が貰えず無給だった点に有ります。
朝鮮前期には文科の代わりに別科(吏科)という科挙試験を行って、その結果を通じて任命され、それに伴う品階も受けましたが、16世紀以降には品階も受けられず、両班階層から激しい蔑視を受けました。
事実上、朝鮮王朝時代の地方行政の不正腐敗の最大の原因が、正にこれら衙前アジョンの存在だったと言えます。
生活をするには収入が無ければならないのに、その地域の全ての行政実務を担当し、地方官衙の維持費や行事費、服役の際の費用を全て自分が満たさなければならないにも関わらず、一切の収入が無いとなると、する事は明白です。
不正に手を染めざるを得ません。
代々世襲されて居る身分だけに、生きる為にあらゆる不正腐敗をせざるを得ない状況に追い込まれたと言えます。
特に、朝鮮後期には税の付加税である邑徵分を奪ったり、民が軍役/雑役を減らしたり免除を受けるために賄賂を出す行為で有る「ケバン契房」が完全に定着してからは、衙前アジョンの仕事は莫大な人気を呼び起こす事になりました。
地方に赴任して来る守令は、彼らを統制する所か、5年と言う限られた任期内にこれらと結託して任期中の自己利益をどうにかして得ようと収奪に走るのが精一杯で、郷吏を監視する機能で有る留郷所は力を失ってしまいました。
彼らに碌封を与えない理由は、朝鮮王朝の理想が「小さい政府、低い税金、少ない公務員」だったからです。
名目上だけの「小さな政府」を目指した制度的欠陥により、我が国の社会は蝕まれて行ったと言えます。
民乱が起きれば中央から派遣された守令は村から追放されるだけですが、中央政府から派遣されて居ない衙前アジョンは民衆の憎しみを一手に受けて民乱の渦中に処断されるのが必須でした。
この様な制度的欠陥は我が国に限った事では無く、前近代時代に於いては世界的な現象だったと言います。
例えば、イギリスでは地方官職・ジェントリーが大体無報酬の名誉職だったと言います。
この様な不正腐敗が近代市民革命の下地になった事は確かだと言えます。
朝鮮王朝末期には、この様な事情で社会の紊乱が果てしも無い状態だった事が国力の弱体化をもたらし、近代化の為の富を蓄える余力を奪い、結果的に植民地に陥いる最大の原因となった事が多いに悔やまれます。
<参考文献>
나무위키
한국민족문화대사전
#韓国ドラマ #韓国時代劇ドラマ #韓国映画
