<映画 キムソンダル>
 
ワンポイントコラム
<韓国朝鮮歴史のトリビア>
229. ポンイ鳳伊 キムソンダル金先達
 
 
 
 
 
前回ソウルと来ましたから、今回はバランスを取ってピョンヤンでしょう。
 
しかし、ピョンヤンの語源はしっかりして居て、以前地理篇で述べた通り、元々古語でプルナ(부루나)と言い、平らな土地を意味する言葉でした。
扶余のプルなどと同じポル(벌)に繋がっています。
 
<ピョンヤン市街地>
 
プル平ピョンになり、ナが川、土地を表す壌ヤンとなった訳です。
この様に、語源が一目瞭然で、謎を深掘りする余地はございません(笑)。
 
<ピョンヤン冷麺>
 
なので、方向を少し変えて、ピョンヤンの名物を。
ピョンヤン名物と言えば通常思い出すのは冷麺
あの味はクセになる程です。
 
 
しかし、名物はもうひとつ、もう1人と言うべきか有り、それが今回紹介するポンイ鳳伊 キムソンダル金先達です。
実在人物では有りません。空想の人物です。
 
 
ハッタリ好きなペテン師、詐欺師ですが、「一休とんち話し」の様にどんな人間をもやり込めてしまう機智に富んだお笑いのヒーローです。
開城ケソン以北の西道地方(黄海道・平安道)に広く分布していた口伝の説話・物語が、様々な野談集を通じて、彼の物語として統合された物です。
 
韓国で、2016年にユスンホ主演で「キム・ソンダル 大河を売った詐欺師たち」「봉이 김선달」と言う題名で映画化されました。
 
 
「ソンダル先達」とは武科の科挙の初試に受かった人物に与えられる称号・肩書きですが、良い歳をした大人への一種の尊称だと思って良いでしょう。
 
キムソンダル「ポンイ鳳伊」という号(ペンネーム)を得る事になったのには、次の様な所以(ゆえん)が有ります。
 
<ピョンヤン地図>
 
キムソンダルが或る日、市場を散歩して居ると、ニワトリを売る店の前を通り過ぎました。
丁度、鶏小屋の中には非常に大きくて形の良いニワトリが一匹居たので、飼い主を呼んでそのニワトリが「鳳凰ホウオウ」では無いかと尋ねました。
 
 
キムソンダルが知らぬ振りをして言い続けると、最初は違うと否定していた鶏の商人も調子に乗ってニワトリ鳳凰だと答えました。
 
彼は高価な代金でそのニワトリを購入しました。
キムソンダルが郡守の元へ行き、それを鳳凰だとして捧げると、怒った郡守はキムソンダルの頬を打ちました。
 
 
キムソンダルは郡守に「自分はニワトリの商人に騙されただけだ」と言うと、ニワトリの商人を捕らえろという命令が落ちました。
 
結局、彼はニワトリの商人から、購入した代金以上の多くの賠償金を受ける事になりました。
 
 
ニワトリの商人にニワトリを鳳凰と騙して利益を見たので、その後「ポンイ鳳伊」キムソンダル先達と呼ばれる様になったとの事です。
 
「ボンイ鳳伊・キム金ソンダル先達説話」は朝鮮後期の歴史的状況と密接な関係を持つ人物・物語と言え、西道差別に喘いで居た平安道・黄海道の人々の鬱憤を風刺で解消すると言う使命を果たしました。
 
数有る彼のお話から2話だけ選んで紹介しましょう。
 
 
1.ニワトリの卵と子牛を換えた話し
 
ある日、キム先達はニワトリの卵がいっぱい入った袋を持ってケチで有名なリョンガム(年寄り)を訪ねました。
「私の家にどうしたのだ?」と尋ねるリョンガムにキムソンダルは
「リョンガム様の家にはオスのニワトリが多いのでは?」とうそぶきました。
 
 
「でもメスのニワトリは多くは無いぞ。
所で、それは何だ?」
「この卵を見てください。」
キム先達が卵の入った袋を見せました。「私の家のニワトリが卵を沢山産みました。
リョンガム様、あなたの家のオスのニワトリのお陰です。
それで卵を少し持ってきました。」
 
 
ケチなリョンガムはサッと素足で出て、卵の入った袋を引ったくる様に受け取りました。
「そうだな。我が家のオスのニワトリが居なければ、お前の家のニワトリがどうやって卵を産む事が出来る物か。
お前は恩を返す事を知っている人間であるぞ。」
リョンガムは得意満面で喜びました。
 
数日後、ケチのリョンガムのメスの牛が子牛を産みました。
そのニュースを聞いたキム先達がリョンガムの家に訪れました。
リョンガムはキム先達の手を見ましたが、手ぶらでした。
 
 
「なぜ卵を持って来なかったのだ。
卵を沢山産んだはずだ!」
「はい、卵をいっぱい産みましたとも。
所が、それよりも大きな事が起こったでは有りませんか。
リョンガム様の家の牛が子牛を産んだのです。」
 
 
「… 産んだとも。それがどうしたのじゃ?」
「では。」
と、キムソンダル先達は何も言わず牛小屋に入り、子牛を引きずり出して来ました。
「リョンガム様。
我が家のオスの牛が居なかったら、リョンガム様の家の牛がどうやって子牛を産む事が出来たでしょう?
卵がリョンガム様の物で有る様に、この子牛は我が家の物です。」
 
 
「何と?この様な図々しい泥棒を見た事有るか?」
ケチのリョンガムは地団駄を踏んで悔しがりました。
キムソンダル先達は
「目を開けた泥棒は、リョンガム様が最初にされました。」
と言うと、悠々と子牛を引いて立ち去りました。
 
(おしまい)
 
 
2.テードンガン大同江の水を売った話し
 
昔、平安道のとある街に住んでいたお金持ちが、銅銭(葉銭)をいっぱい入れた大きな袋を牛の背中に載せてピョンヤン城に上がりました。
田舎で農夫たちの血汗を絞り取ってお金を集めた金持ちは、より大きな商機を狙ってピョンヤン城に入ったのでした。
 
 
ピョンヤン城内の人々が村の金持ちの出現を良く思わない事を知ったボンイ鳳伊・キム金ソンダル先達は、お灸を一度据えてやる事に決め、ある日、市場に出向きました。

 

彼は市場で銅銭のカネの束ひと抱えを工面すると、それを持ってテードンムン大同門付近にある家々を回り、銅銭一枚ずつ分けながら言いました。

 「この銅銭を持っていて、明日の朝、テードンガン大同江の水を汲む時に私に返して下さい。」
 
彼らはキムソンダルがまた何か計略を練って居るのだろうと考えながら、応じました。
 
 
翌日の朝、お金持ちが朝早く大同江沿いに散歩に出ました。
そこで、大同門の前でカネの袋を開けて座っているキムソンダルを見て目を剥きました。
何と、ピョンヤン城内の人々が大同江の水を汲み終えると、大同門の城門の入り口に座っているキムソンダルの袋にお金を入れるでは有りませんか。
瞬く間に袋はお金で膨れ上がりました。
 
 
(この様な商売こそ金儲けの基本では無かろうか?
大同江は流れ続けており、城内の人々は水を飲まなければ一時(いっとき)も生きていけないのだから、これこそ元手入らずで、お金が川の水の様に溢れて来るのでは無いか!)
そう考えた金持ちはキムソンダルに近づきました。
 
 
「この大同江を私に売ってもらえませんか?」
 
するとキムソンダルは、何をおかしな事を言うのかとでも言う風に、
「大同江は我が家に代々下って来た家中の宝物で有り、ここから生まれるお金で百を超える家族・親戚を食べさせなければならないのだ」と言いながら断りました。
 
お金持ちは、キムソンダルが断れば断る程値段を上げ、是非売って欲しいと哀願しました。
交渉は昼過ぎまで続きました。
キムソンダルは金持ちの懇願に勝てない振りをしながら、「ならば持って来たお金の袋を全部置いて行くなら、大同江を売ってやろう」と言いました。
 
 
それを聞いたお金持ちは大喜びして、
大きなおカネの袋を全てキムソンダルに渡しました。
大同江をキムソンダルから買ったお金持ちはとても喜んで、小躍りしました。
 
次の朝、とても嬉しい夜を過ごしたお金持ちは、日が明るくなる前から大きな箱を持って大同門の前に座りました。
 
所がどうした物か。
 
 
ピョンヤン城の人々が大同江の水を汲みに大同門に入って来ましたが、自分の箱にお金を入れる人は一人も居ません。
 
彼は
「コレ、この箱にお金を入れなさい。
ワシが大同江を買った主人で有るぞ。
なのに水をタダで汲むとは何事だ」
と、解説まで付け加えました。
 
 人々は何を言うのかと皆、知らぬ顔です。
彼はムキになって叫びました。
 「何も知らないのか?
ワシは昨日大同江を買ったのだ。
だからこれからはワシに水の代金を払って行く様に。」
 
 
すると、1人が言いました。
「おかしな事を言う人だ。
大同江の所有者ならピョンヤンの人々なのに、我々から大同江の所有権を買ったとでも言うのかい?
先祖代々、誰かれ無しに汲んで飲む水にお金を払えとはどう言う意味だい?」
 
<ピョンヤン市街地>
 
この言葉に金持ちは地団駄を踏みました。
「え? そなた達は昨日お金を払わずに行ったのか?
袋に投げ込んだお金は水代では無く、何だったのか?」
 
その時になってようやく、キムソンダルがこの金持ちを騙した事を知ったピョンヤンの人々はみんな、腹を抱えて大笑いしました。
 
 
キムソンダルに騙された事を知ったお金持ちは、ショックの余り倒れてしまいました。
大金持ちになろうとピョンヤン城に入ったお金持ちは、キムソンダルピョンヤン城の人々によって散々な目に遭い、早々に逃げて行きました。
 
(おしまい)
 
<ピョンヤン テードンガン大同江>
 
と言う感じです。
ポンイ・キムソンダル先達はソウルのチョンスドン鄭寿東など、多くのとんち話しなどと共に、童話や小説など様々なメディアで民衆に愛されて居ます。
 
 
 
 
<参考文献>
한국민족문화대사전
나무위키 
우리 민족끼리 봉이가 정말로 대동강물을 팔았을가?
소년한국일보 대동강 물 팔아먹은 전설의 사기꾼 아시나요?

 

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