ワンポイントコラム
<韓国朝鮮歴史のトリビア>
217. 於于野談オウヤダム
久しぶりに神田神保町に用が有ったので、気になって居た韓国書店「チェッコリ」を覗きました。
皆、欲しい本ばかりですが、価格が高いのが『玉に瑕(きず)』。
輸送費や関税が掛かるのですから、仕方有りません。
しばらく本棚を眺めていると550円のバーゲンセールコーナーを発見。
そしてそのコーナーで『於于野談オウヤダム』を発見!
すかさず即買いしてしまいました。
3000円以上する本が550円とは、とっても良い買い物です。
今回はこれに因んで、「野談」と『於于野談』について見たいと思います。
まずは「野談」ですが、これは朝鮮後期に漢文で記録された、比較的短文の雑多な話、説話を指します。
ここで言う「野や」とは官制では無い『民間』を指し、「野談」とはつまり「民間の文学」と言う意味合いを持ちます。
「野談」は、中国や日本には存在しない朝鮮だけの独特な文学です。
「正史」では無い「野史」にも似た言葉で、民間説話的な要素を大きく含んだ漢文文学、つまり支配層の文学だと言えるでしょう。
「野談」には伝説、民話、逸話、外史など説話的な作品も有れば「小説」的な作品も有ります。
代表的な野談ヤダム集を挙げると
リュモンイン(1559~1623)の「オウ於于野談」、
リ・サンウ李商雨(1621~1685)の「チョンイェロク天倪錄」、
18世紀の人物であるロミョンフム盧命欽の「トンペナクソン東稗洛誦」、
イムメ任邁の「チャプキコダム雜記古談」、
19世紀の人物であるリヒョンギ李玄綺(1796~1846)の「キリチョンファ綺里叢話」、
キム・ギョンジン金敬鎭の「チョングヤダム靑邱野談」、
リフイピョン李羲平(1772~1839)の「キェソヤダム溪西野談」、
1828年の「キムンチョンファ記聞叢話」、1833年に編纂された「キェソチャプロク溪西雜錄」、
リウォンミョン李源命(1807~1887)の「トンヤフィジプ東野彙輯」、
その他作者不明の「へドンヤソ海東野書」・「キムンチョンファ記聞叢話」などが挙げられます。
この内、特に「キェソヤダム溪西野談」・「チョングヤダム靑邱野談」・「トンヤフィジプ東野彙輯」を韓国三大野談と呼ぶそうです。
今回購入した「オウ於于ヤダム野談」は
朝鮮中期に活躍した文臣リュモンイン柳夢寅(1559∼1623)が著した、野談の嚆矢と呼ばれる朝鮮初のヤダム野談集です。
著者のリュモンインは壬辰戦争の際、宣祖を伴って義州まで避難に同行するなど、多くの歴史的事件に遭遇して居ます。
光海君期に、王と政策面で袂(たもと)を分かち、職を辞して落郷しました。
しかし、仁祖反正が起こると光海君の復位を狙っていると謀反の疑いで告発され、息子と一緒に処刑されてしまいました。
なので「オウ於于ヤダム野談」を編集・完成させる事が出来ず、30種もの写本が存在する事になりました。
英祖期に復権した後、子孫で有るリュクム柳琹が1832年(純祖32)「オウ於于集」を発刊し、「於于野談」の遺稿を集めて出版しようとしましたが、完成出来ませんでした。
その後もずっと筆写本で伝えられましたが、1964年に彼の子孫で有る柳濟漢が活字本を発刊、その後2001年に多くの写本・異本を総合した「完訳本」が発刊され、ようやく全貌が明らかになりました。
この本には、人間の生活の多くの面での野史・巷談・説話などが収録されて居ますが、全般を通じて風刺と機智に満ち、簡潔ながらも明快な文体で壬辰倭乱の前後の生活が万華鏡の様に投影されて居ます。
「於于野談」は朝鮮後期に盛んに執筆された「野談」集の嚆矢であり、説話技術が大胆な画期的な作品として高く評価されて居ます。
ここで、ひとつだけ説話を紹介します。
李舜臣の説話です。
壬辰倭乱の時、統制使李舜臣が閑山島に駐屯していた。
李の息子は、忠清道で戦って馬から落ちて死んだ。
李は息子の死を知らずにいるが、忠清道防御使が外敵を掴み閑山島に圧送して来た。
この日の夜李の夢に息子が血まみれになって現れ、
「捕送された外敵13人の中に、私を殺した者が混じっています。 」
と述べた。
続いて息子が死んだとの通知があった。
李が捕まった外敵に、
「ある日、忠清道で白い模様がある赤い馬に乗った人をお前たちが殺し、その馬を奪った筈だが、今その馬が何処に有るのか?」
と追及した。
すると外敵の一人が、
「ある日、白い模様のある赤い馬に乗っ少年たちが群集に突っ込んで3、4人を殺すので、草むらに伏兵して襲って殺し、その馬は陳將に捧げた。」
と答えた。
李は号泣し、その外敵を殺せと号令し、息子の魂魄を呼んで文を作って祭祀した。
この様なお話しが沢山詰まって居ます。
因みに、チョンジヒョン主演の人気ドラマ「青い海の伝説」は、この「於于野談」の説話から作られて居ます。
今回、今まで存在は知って居た物の、本物の「於于野談」を手に取るのは初めてなので、ジックリと手に取り耽読したいと思います。
面白い記事が有ればまた記事にしたいと思います。
<参考文献>
한국민족문화대백과사전
나무위키