4 韓国朝鮮の文化

韓国ドラマ映画の中の共和国の描写(描き方)
 
 
 
私事で恐縮ですが、この度、とある機関で『コリアと歴史』についてお話しをさせて頂く機会を頂き、喋らせて頂く事になりました。
 
お話を頂いた時、真っ先に浮かんだのが
ドラマ「愛の不時着」で、お堅いお話しから入るより、韓国及び日本で巻き起こった「愛の不時着」ブーム現象を取っ掛かりにした方が、集中度も高まって話しもスムーズになるのでは?と考えたのでした。
 
 
そう考えると、これまで韓国共和国を具体的にどう描いて来たのか大まかには知って居ましたが、大きな歴史的な流れについて俄然興味が湧いて来ました。
 
と言う事で、本来ならワンポイントコラムのカテゴリーに入る内容かも知れませんが、ドラマ映画繋がりと言う事で、コチラに分類の上、上記の件述べさせて頂きます。
 
<愛の不時着に見える共和国の描写>
 
今年は、朝鮮戦争勃発71周年、停戦68周年でしたが、この68年間、韓国ドラマ映画はいつも南北の政治関係を敏感に反映し、共和国に対する韓国国民の認識の形成に重要な役割を果たして来たと言えます。
 
韓国に於ける共和国の描写は、韓国で政権が変わる度に影響を受け、大きな変化を経験しました。
 
❶共和国に対する敵意が強かった1950年代の初期韓国映画は、反共意識を鼓吹し、政府の対共和国敵対政策を反映し、
共和国を典型的に「敵」として描きました。
 
共和国に対して同情的な雰囲気は、一切有りませんでした。
 
<映画 ピアッコル>
 
ただ例外は有り、1955年の作品「ピアッコル」は智異山でゲリラ活動をするパルチザン内部の葛藤と苦悩を描きましたが、この映画では共和国パルチザンを敵視するよりも、彼らの人間的な姿を描き出しました。
 
当時、共和国への敵対的な雰囲気の中で映画はパルチザン兵を人間として表現したと激しい批判を受けました。
初期、上映が禁止されましたが、監督が最後のシーンを修正する事で再上映される事になったと言います。
 
<映画 ピアッコル>
 
❷映画の検閲は1961年にクーデターで執権したパクチョンフィ朴正煕政権に入って、さらに強化されました。 一言で、反共映画がジャンル化されたと言えます。
 
1962年に制定された映画法に基づいて、当時の政府は関連規制を新設し、共和国を好意的に描写する事が殆ど不可能になりました。
 
<七人の女捕虜>
 
イマニ監督は、1965年の映画「7人の女捕虜」でパルチザンを人間的に描いたとして『国家保安法』違反の疑いで逮捕されました。
映画は、朝鮮戦争中捕虜になった韓国看護師将校7人を北へ護送中、中国軍が彼女らを犯そうと飛び掛かります。
それを見た共和国将校がそれを阻止して中国兵を処断してしまいます。
軍法会議に掛けられる事を悩んだ末、彼女らの説得を受け、彼が韓国に帰順すると言う内容です。
 
監督は、映画を再編集する事に同意してようやく釈放されました。
 
この時期の映画はこの様な圧力の中で普通、韓国軍人の英雄的な面を強調すると同時に反共メッセージを強調したのです。
 
<映画 帰らざる海兵>
 
最も代表的な例は、1963年の映画「帰らざる海兵」で、この映画はインチョン仁川上陸作戦に参加した海兵隊員たちの友情を描いて居ます。
 
反共映画で韓国民に今なお残る共和国のステレオタイプをシッカリ植え付けた映画として、1978年に製作されたアニメ映画「トリ将軍  第3トンネル編」を挙げられます。
 
<映画 トリ将軍>
 
この映画は共和国に対する敵意を示す代表的な作品です。
 
映画で悪役の『赤い首領』は豚で、彼の部下たちはキツネやオオカミ、全て悪として描写されます。
特権層によって搾取される人民と、アヘン密輸をする北朝鮮のエリート層を描きました。
 
体制競争が事実上終了した1980年代には、政治社会的な変化と民主化の波の中で映画の中に於ける共和国への関心は薄れ、描写も大きく変化しました。
 
<88 ソウルオリンピック>
 
識者は1988年のソウルオリンピックが重要な起点だったと指摘して居ます。
ソウルオリンピック開催で自信を得た韓国民が、共和国を「助けなければならない弟妹の様な存在」と思い始めたと言う訳です。
 
❸自信を基に反共色は薄れ、自然と南北の分断の悲劇を素材にした映画に軸が移って行きました。
 
代表的な作品がイム・グォンテク監督の「チャクコ」(1980)です。
この映画は、パルチザンだった事で30年間逃げた男と、パルチザン討伐隊で有ったが、彼を逃したせいで家がメチャクチャになってしまった2人が更生院で出会い、朝鮮戦争が残した怒りと悲哀に満ちた韓国現代史を振り返るお話しです。
 
<映画 チャッコ>
 
映画の主題は、最終的に6・25の朝鮮戦争が列強の代理戦争だった事、自分たちがその被害者だった事に気付く点です。
 
それまで否定的に描かれて居た「北傀」こと共和国の姿を脱皮して、分断が互いの深い傷そのもので有り、分かれて対立して居る関係を、「人間」同士と言う同等の立場に置き替えて、深い洞察力を与えたのです。
 
そして韓国映画は、1993年に金泳三大統領の当選後、90年代南北交流が徐々に増える中で、変化を見せ始めました。
 
<映画 シュリ>
 
キムヨンサム金泳三は、映像産業の可能性を鑑(かんが)み、数十年の間持続してきた規制を緩め、投資を奨励しました。
 
1996年には映画の事前検閲は違憲で有るとの決定がなされ、1999年には映像物等級委員会が設立されました。
 
<映画 シュリ>
 
韓国初の『ブロックバスター級映画』と呼ばれる1999年の映画「シュリ」が、共和国描写の枠組みを破った作品とみなされます。
 
映画は、韓国と共和国の特殊要員(スパイ)の話を扱って居ますが、敵対的な両国間での主人公たちの個人的なロマンスを扱って居ます。
この映画はソウルでの観覧者数150万人を初めて突破し、韓国映画の画期を作ったと言われて居ます。
 
<映画 JSA>
 
これらの人間描写は、これまた今もファンの多い2000年の映画「共同警備区域JSA」でさらに拡張されます。
この映画は、キムデジュン金大中前大統領と共和国のキムジョンイル金正日委員長の初の首脳会談が有ってから数か月後に封切りされて居ます。
 
映画は、DMZ:非武装地帯で発生した南北間の銃撃事件の調査の話であり、両国の軍人の間の緊張と人間関係、全てをカバーして居ます。
 
<映画JSA>
 
識者はこの映画が「両国の不安定な関係を両面で扱っている」と評価して居ます。
❹一方では南北が兄弟の様にも見えますが、一方では理念の差異により、果たして今の様な関係が継続可能かどうか非常に警戒している関係と言う訳です。
 
これらの人間描写は、キムデジュン金大中前大統領の「太陽政策」を受け継いだノムヒョン盧武鉉前大統領の時もずっと続きました。
 
しかし、2008年から2017年保守政権であるリミョンバク李明博パククネ朴槿恵政府が入り、変化が生じました。
 
 
南北関係は再び急速に冷え込み、特に2010年天安艦事件の後には、南北関係がさらに悪化しました。
 
❺緊張感が高まり、韓国映画の中の共和国の描写は再び敵対的な描き方になりました。
 
2015年の映画「延坪海戦(邦題ノーザンリミットライン)」は、2002年に起こった延坪島海戦での共和国の無慈悲な攻撃を描いて、太陽政策が間違っている可能性があると言う点を強調しました。
 
<映画 ノーザンリミットライン(邦題)>
 
しかし、民主化以前の時代とは違って、幾つかの映画は、引き続き共和国をステレオタイプには描かず、どちらとも取れる微妙な存在として描きました。
 
❻この時期から、共和国を素材にしたコメディージャンルが追加され始めました。
 
それだけ共和国に慣れて、柔軟な対象として風刺と解釈が可能になったと言う表れです。
 

少し前に紹介した「ハナ」(原題コリア)もその類いに入るかも知れません。

 

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オミンホ監督の「スパイ」(2012)は、今まで見られなかった生活密着型、生計型のスパイを通じて距離感を縮めました。
 
<映画 スパイ>
 
南に派遣されて長く居るスパイは、今自分がスパイなのか韓国の住民なのか区別出来ない程になります。
 
その様な状況で暗殺指令を持って来たエリートスパイの登場は悩みの種でしか有りません。
 
長い南北の対峙がもたらした奇抜な想像力であり、最近、現実的でおなじみの風景かも知れません。
 
<映画 義兄弟>
 
他にもソンガンホ主演の「義兄弟」(2009年)の様にスパイ同士仲良くなってしまう捻れた作品も登場して居ます。
 
ハンサムな共和国諜報員と生計密着型韓国要員の登場する、イケメン代表キムスヒョン主演「シークレット・ミッション」(監督チャン・チョルス2013)、今をときめくヒョンビン「共助」(監督キム・ソンフン、2016)、「容疑者」(監督ウォンシンヨン、2013)など、ハンサムで能力の有る共和国諜報員と生計密着型(あるいは不正型)韓国要員が登場すると言う作品も多く登場しました。
 
<映画 シークレットミッション>
 
❼これらの作品は、無能で腐敗した韓国保守政府と、保守政権が発足した後に交流が減り、しばらく神秘なヴェールに隠された共和国に対する現実認識の反映と思われます。
 
<映画 コンフィデンシャル共助>
 
2017年ムン・ジェイン文在寅政権になり、共和国の人間的な面を描く作品が再び登場し始めました。
共和国の核実験が続いていた時期に公開された2017年の作品「鋼鉄の雨」は、共和国の最高指導者を救出しようとする共和国要員が、韓国に越南して来て生じる話を描いています。
 
<映画 鋼鉄の雨>
 
作品は、南北の人々がお互いを知って行く過程を通じて、主人公の人間的な面を見せました。
2018年の映画「工作」は、共和国の高位層に浸透した韓国工作員の話を扱って居ますが、両国の政治的複雑さと主人公たちの人間的な姿も強調して居ます。
❽識者は、これらの映画は反共を越えて共和国との提携、連携を見せてくれた作品で有ると評して居ます。
 
この様な認識の変化は、2018年にムン・ジェイン文在寅大統領が共和国、キムジョンウン金正恩委員長と3回にわたる首脳会談を持つなど、南北交流が増え、さらに加速されました。
 
❾ドラマ「愛の不時着」はこの様な流れの中から生まれた作品である事が分かります。
 
識者は、このドラマを「ブルーオーシャン」だと呼びました。
まさしく、今まで前例が無く競争相手の居ない未開拓市場だと言う訳です。
 
「愛の不時着」の成した『画期』については、まだ私の講演前と言う事も有り、
言及を避けますが(笑)、ドラマをご覧になった皆さんが、上に挙げた作品と比較してお考え頂きたいと思います。
 
<映画 スパイ>
 
多分、今後も南北関係は一筋縄では進みませんし共和国への描写も振り子の様に振れる事でしょう。
しかし、「愛の不時着」以降と言う括りの中で、韓国映画ドラマは更なるステージの上に立つ事で有ろうと言う見通しを述べつつ、文を締めたいと思います。
 
<参考文献>
[북한영화⑤] 한국영화 속 북한은 어떤 모습으로 그려졌는가, 휴전 직후부터 2010년대에 이르기까지
북한: 한국 영화 속 북한 모습은 어떻게 변했나
 

#韓国ドラマ #韓国時代劇ドラマ #韓国映画

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