​4月14日。

昨日は休みだったし、本来なら今日も体を休めていたいところだった。
だが、あの「永年理事長」から見積もりの催促が来ているとなれば、動かないわけにはいかない。
重い腰を上げ、提出の準備をして事務所を出た。
​向かう前に、念のため電話を入れる。
……出ない。
二度三度鳴らしても、応答はない。
「だれも電話に出んわ、ってか」
そんな古典的な独り言が漏れる。
​いないならポスト投函で済ませよう。
そう切り替えて現場へ向かい、一応ピンポンを押してみる。
すると、あっさり本人が出た。
​「今降りるから、そこで待ってて」
​嵐の予感がした。
エントランスの30分一本勝負
​エントランスに降りてきた理事長との対話は、予想通り長引いた。
時計の針が半周する間、俺はひたすら彼の「遠回しな」話に付き合うことになった。
​話の着地点は、結局のところ一つ。
「値引きする気はあるか?」
​俺は迷わずに答えた。
「この金額が、私のファイナルアンサーです」
​普通なら「一度持ち帰って検討します」と濁す場面だろう。
だが、駆け引きは必要ない。
こちらはプロとして、適正な仕事に対する適正な対価を提示している。
これ以上でも、以下でもないのだ。
​マンションを良くしたいという理事長の熱意は本物だろう。
だが、彼が求める理想のレベルと、現実的なこちらのラインには、埋められない溝がある。
「メーカーの下請けに頼むのが、あんたの理想には一番近いぜ」
喉元まで出かかったそのアドバイスは、結局、心の中のポストへ投函するに留めた。
​一仕事を終え、戦場から事務所という名のシェルターへ帰還する。
張り詰めた神経を緩めてくれるのは、やはりこの時間。









今日の相棒は「帆立だし 塩そば」だ。










​もちろん、最近のマイブームである「おにぎりドボン」は欠かせない。

蓋を開けた瞬間、上品な帆立の磯の香りが鼻腔をくすぐる。
透き通った黄金色のスープは、角のない塩気と深い出汁のコクが絶妙なバランスだ。
そこに、あえて「梅おにぎり」を投入する。

繊細な帆立の出汁に、昆布の旨みが重なり合うことで、スープにさらなる奥行きが生まれる。
おにぎりの米粒一つひとつが、旨みの凝縮されたスープを吸い込み、麺とはまた違う贅沢な「締め」へと昇華していく。

理事長との30分間の不毛な議論も、この一口でどうでも良くなる。
これが、今日の俺が出したもう一つのファイナルアンサーだ。

​■ 今日のまとめ
​休み明けの「電話に出んわ」は、長期戦の合図。
​見積もりの駆け引きに時間を割くより、一発提示で背中を見せるのが俺流。
​理事長の理想に応えられないのは、冷たさではなく「誠実さ」だと思いたい。
​帆立だしにおにぎりを入れると、事務所が高級料亭に変わる(気がする)。
​明日は、この見積もりがどう転ぶか。
まあ、人事を尽くしておにぎりを食ったんだ。
あとは天命を待つのみ。