横浜シネマリンは、ボクの地元の映画館。

きょう、18日、そこで、またまた『にわのすなば』を見たのだった。



この大傑作を、評価する人はまだまだ少ないと思われる。

まあ、それもしょうがない。


たとえばのハナシ…
北野 武でいえば、『ソナチネ』、黒沢 清でいえば、『CURE』は、公開された当時…

リアルタイムでの評価は、あまりなかった。


ようするに、多くの人たちに見られてないのだろう。

ハリウッド映画でいえば、『ブレードランナー』だって、徐々に…

評価があがっていった、そう記憶している。














『にわのすなば』が、日本公開されたのは… 去年の12月ごろだったと思う。


それを、ボクは見た。そして、これはちょーおもしろーい、と評価したのだった。












ちょーおもしろい!


といっても、爆笑コメディではないのだった。



ギャグが炸裂するとゆうワケではない。




物語。ストーリー。


その展開に、意外性があり… 巧妙に仕組まれた…

人と人との出会いが、現在と過去の、つまり、時間の厚みを呼び…


空間としては、とくに特徴のない都市…

地方都市を。

人が歩き回る、ブラブラする、小規模なロードムービーとも思える。














ロードムービーと、いま書いたが。

ほんとうに、そうなのだろうか?



検証してみよう。



最初と最後が、円環構造のように描かれているのは、見ればわかるが。


ファースト・ショット。車の騒音とともに、窓の外に見えるバスだかトラックだかをカメラは捉える。


そして、ズームが引いていき、室内にいる柴田千紘の姿を捉える。

この映画の、笑いの担当は… 彼女だとゆう意思表明。

おっと、それはボクの独断だが、室内にいる柴田千紘を見せたあと。

扉をノックする音を響かせて、カメラを切り返し、こんどはドアをあけてインしてくる…

カワシママリノをカメラは捉える。


この映画の中心、つまり主役はカワシママリノだと思えばよいのだが…

それは、町の主 (とゆうと大袈裟だが) である柴田千紘のいる空間、そこに、カワシママリノが入ってくるとゆう…

この映画の構造を、はっきりと、この冒頭から描く見事な演出だといえた。







          黒川幸則監督








町。


柴田千紘は、この町、わが町を、なぜか知らぬが猛烈にプッシュする。



町の名前は、十函 (とばこ)



この、柴田千紘の、わが町プッシュの滑稽さを…

すぐに、カワシママリノたちは観客に伝える言動をする。


なんの特徴もない、単なる地方都市を… 猛烈にプッシュするなんて、アホみたい、と。













ともあれ、十函なる、地方都市を。


カワシママリノは、歩く。


それは、1人ではなく、ツレがいる歩行であった。


まず、カワシママリノに声をかけるのは…

ベンチに寝ていた新谷和輝である。



この、新谷和輝の、犬っぽさに注目したい。

 
犬顔、そして、ワンワンと言いたげな… お手、のようなアクション。

対するカワシママリノは、猫とゆうか、キツネにも似た顔つき。



犬と猫。


 
この2人が、十函なる町を歩き回る。













車の騒音が、響きつづける。

といっても、映画の最後まで、車に乗る描写はない。


『にわのすなば』は、歩く映画であり、ほんの少し…

自転車、そしてスケボーが登場するのだった。



カワシママリノとともに、歩く…

新谷和輝に、すれちがいざま声をかけるのは、遠山純生。


ここで、事態が転調するのにあわせて、音楽が鳴る。


遠山純生は、はるか過去の… 思い出話を、新谷和輝にしてみせる。



新谷和輝からしてみれば… 遠山純生との思わぬ再会。

現在の状況に、不意に、過去の思い出、出来事が重ねあわされる。


このあたりの、さりげない巧妙さは、すぐれた脚本の功績だといえる。




カワシママリノは、新谷和輝の… 過去の出来事など知るよしもない。

 

ところが、あるとき、その…

新谷和輝の過去の歴史に遭遇する、そうした展開。


伏線といえば、それまでだが、不意に再会した…

遠山純生と新谷和輝のやりとりが、すっとぼけ、あるいは忘却ゆえの…

あいまいさに満ちているトコロは、確信犯といえた。


 

あいまいさ。

すっとぼけ。




カワシママリノは、地図に描かれた… マスコ家を探すのだが…

それは、最初は見つからない。


観客にも、マスコ家が、どのような意味をもっているのかは、わからない。



そして、少し時間がすぎて。


忘れたころに、マスコ家が登場するとゆう、いわば遠回りの展開。






          監督&プロデューサー






遠回り。

迂回。

目的地に、忘れたころに到着する。


その目的も… 最初から無意味を含んだニュアンス。




目的地を探すものの、カワシママリノにとっては、それもど~でもいいモノといえた。



つまり、脚本、並びに… 監督は、すっとぼけたフリをして、観客を迷宮に誘う手口。



遠山純生が、迷宮への入り口となるグミを… さりげなくカワシママリノに手渡す。





すると、またしても転調の合図の音楽が鳴り…

カワシママリノと、西山真来が、突然出会うのだった。







 




このとき。

画面に不意に侵入してくるブツ、それが上から降ってくるのだったが。

そのあとの、ビールをのむカワシママリノとゆう描写…


そしてそのあとの… カワシママリノのアクションなめ、からの…

俯瞰で西山真来を捉える → 切り返して → カワシママリノを仰角で例のブツとともに捉える →

とゆう、この一連のショットが素晴らしいと思った。


見事な演出だ。












例のブツ、って… はっきり書いてしまえば、それは布団なのだが。


布団が、突然フレームインしてくるとゆう… そこは、よくある喜劇的な手法にも思えた。


グミ → 布団のフレームイン → ビール


と、こう書いても、なんのこっちゃではあるが…



この場面での、西山真来のセリフ

「わたしは十函に復讐するために戻ってきた」とゆう、思わせ振りすぎるトコロとともに…

この映画における、若干のキズなのではないかと、そんな気もするのだった。



 
西山真来に連れられて…

カワシママリノは、マスコ家、それは風祭ゆきの家なのだったが…

その家にインする。



すると、カワシママリノは、風祭ゆきの家で…
 村上由規乃と遭遇する。



出会いの連続。



いや、それにしても… この風祭ゆきの家での演出がすごいよ。


すごいとゆうかさあ、人物の…

フレームインとフレームアウトなんだけども、風祭ゆきがね。

画面に入ってくる、そして… フレームアウトしつつ、同時に…

村上由規乃も、フレームインしてくるんだよ。

 

そのときの呼吸の絶妙さに、ビックリしましたね。ボクは。










 

えーっとね。


歩き回る人物、それを… 最初のほうは、縦の構図だったり…

横の構図だったりで撮ると。



そこから、いま書いた…

フレームインとフレームアウトの、絶妙な演出に移行…

していたと思う。




 
ラスト直前の、カワシママリノと村上由規乃の、別れのシーンもね。


あれ? カワシママリノが1人で歩いてるのかなー、と思ってると…


村上由規乃が不意にフレームインしてくるのね。


この呼吸の絶妙さは、すごいと思った。




 
人物が歩いている。


言ってしまえば、単純なアクションですよ。


そこを、アクセント&サスペンスをつけて演出しているんだよなあ。



 









ラストは、犬みたいな新谷和輝が、また寝てるし。


もちろん、寝る前…

前夜、彼は踊り狂ってるんだけども。


そこでのタトゥーがなあ。


「んんん?」って思うでしょう、われわれ観客は!



昔、新谷和輝の同級生だった、村上由規乃もさあ。

犬っぽいじゃないですか。顔がね。



あきらかに、演出意図がありますよね。




いちいち見事なんだよなあ。



ああ、素晴らしきおもしろ傑作!





もしかしたら、これ、黒川幸則最高傑作かも。



いや、未来も含めてのハナシですよ。



つまり、これから、『にわのすなば』を超える傑作が…

撮れるのかなあ… ってゆう不安にかられる程の傑作だと思う。



それほど素晴らしい。