自動ドアが私にぶつかってきた。
それが心底腹立たしく感じて舌打ちを1つ。
何故私は女に生まれてしまったのだろう。
下腹部に鈍い痛みを抱えながら目に映るもの全てを恨む。
男にこの痛さは到底わかるまい。
なんなら女ですら分からない奴がいるんだから死にたくなる。
今はそんな奴らの下腹部をピンヒールで踏み潰したい気分だ。
人は自分が経験したことのないものを想像で補うことが出来ないのか。
いや、それは人それぞれと言ったところか。
そもそも女だというだけで月に一度生まれたことを恨む程の痛みを抱え、その都度婦人科に通いつめるなんて悲しすぎやしないか。
少しくらいは優しくしてくれてもいいじゃないの世の中。
私は重い身体を引き摺るように病院を後にした。
もう歩けそうもない。
仕方なくタクシーを拾い、運転手に向かって最大限の愛想を振り絞って住所を伝える。
くそ、なんでこんな時まで愛想良くなんてしなくちゃならないのか。
なんなら何故あいつは迎えに来ないのか。
一緒に住んでいるんだから車のひとつは出したらどうなんだ。
同居を初めて半年になるのに未だに私の考えは読めないというのか馬鹿野郎。
窓の外をぼんやりと見つめながら、また舌打ちを1つ。
怒りの対象が全方向無差別に向いていて収集がつかない。
運転手に声をかけられるまで、私は苛立ちに囚われていた。
エレベーターのボタンを連打して乗り込む。
2階くらい自分の足で登れと言われそうなものだが、私は余程気分が良くなければ階段を使わない主義なのだ。
扉が開いて駆け出したい気持ちだったが勿論出来る訳もなく、ご老人顔負けの足さばきでのろのろと部屋に入る。
部屋に入ればおかえり、と寝起き声のあいつがのそのそと出てくる。
ボリボリと腹を掻く仕草が心底腹立たしい。
「なに、今まで寝てたわけ?」
人でも殺しそうな勢いで睨んだつもりだったが、どうやら何とも思っていないようだ。
「そうだけど。」
私の目を見ずに、何なら面倒なことを聞くなとでも言うように呟く。
「私さ、生理期間だっつったよね。今日婦人科行くとも言ったよね。送り迎えくらいあってもいいじゃない。何の配慮もないの。」
自然と口調が速まる。
なんでよ、こっち見なさいよ。
「ああ、ごめん。これで許して。」
タクシー代とでも言うように財布から5000円札を取り出して私に向ける。
「………そういうことじゃない。そうじゃないでしょ。私は少しくらい優しい気持ちを向けてくれてもいいじゃないのってことを言いたいの。分かってよ。こんな時くらい優しくしてよ。」
そう言っているうちに悲しさが募る。
なんでこの男は私を見ようとしないの。
なんで私はこの男の気を引きたいと思ってしまうの。
恋人でもなんでもないのに。
「………じゃあ、はい。」
困惑と面倒だという思いが滲み出る動きで私の腰に腕を回す。
そういうことじゃない。
そうじゃないんだよ馬鹿野郎。
私は精神的な温もりが欲しいのよ。
なんて思っても物理的な温もりの心地良さには抗えないらしい。
馬鹿野郎、と呟いてあいつの頬を抓った。