『恋空』より泣ける!蜷川幸雄監督『蛇にピアス』ネタバレ。 | アイス ラヴさん。の甘く危険な映画日記。

「痛くないと、感じない」。

そうなんだ…。

二宮和也・松浦亜弥W主演のアイドル映画の傑作『青の炎』から、もう5年。舞台演出家の蜷川幸雄の最新作は、アンモニア臭が漂う作家・金原ひとみの芥川賞作品の完全映画化です。

『愛のコリーダ』を超える痛々しいSMハード・コア映画だと思ってたら、大間違い!。『Deep Love』や『Dear Friends』みたいなベタなドラマ展開で、素直に面白かったです。しかも、ニナガワさんの引き締まった演出が冴え渡ってて、丁寧に話を組み立てていました。それも演劇的じゃなく、誰もが自然に演じていました。今年の映画賞を総ナメするような映画ではありませんが、主人公と同じ20歳前後の女性には共感されそうなラヴ・ストーリーだと思います。『恋空』よりも感動しました。

19歳のルイは、渋谷のクラブで背中に龍の刺青を持つアマという名の男と出会って、意気投合。「スプリットタンって知ってる?」と、蛇のような舌をペロペロさせる彼とすぐに関係を持って、同棲が始まります。

「アマの名前の由来は、アマデウスのアマ」。

「ルイの名前の由来は、ルイ・ヴィトンのルイ」。

そんな会話が続く2人は、お互いの本名や年齢に仕事も知らないまま、愛し合っていくのです。

自分の背中にも龍の刺青を掘ってもらいたくなったルイは、アマの紹介で彫り師のシバを紹介されます。 最初に舌に穴をあけられてピアスをつけてから、次第に“痛み”にハマって行くのです。

ルイ「刺青料金、幾らするの?」。

シバ「エッチ、1回」。

ルイ「そんなんで、いいんだ…」。

シバはルイを裸にして首を絞め、もがき苦しむ姿を見ながら興奮していくサディスティックな男なのです。殺意を覚えながらも…。

ルイは、痛みに耐えながらも肉体改造しながら、アマに内緒でシバとも関係を持ち続けていくのです。

しかし、アマは渋谷センター街でルイに絡んだ暴力団員を半殺しにして、警察に追われていたのです。そして、突然の蒸発…。彼は横須賀で死体で発見されたのです。犯人は誰?。まさか…シバ?…って話なんです。渋谷版『ジョンとメリー』みたいな部分もあります。

ルイを演じるのはこれが映画初主演の吉高由里子。もたついた喋り方で、今時の渋谷ギャルをバカっぽくも愛らしく自然体で演じてくれました。最初、素なのかな?と思ってたんですが、もしかしたらリアルに演じてるんじゃないのか?と思うだけで、ゾッとするぐらいの凄みが感じられます。すぐ泣いちゃうし、怒ってキレちゃうし、表情コロコロ変わるんです。melody.、BoA、YUIにも顔が似てますが、やっぱり原作者の金原さん自身に似てましたね~。

どちらかというと、私は金原さんよりも同時に芥川賞を受賞した、『蹴りたい背中』の綿矢りさの方がタイプだったんです。もはや、過去形ですが。現在の2人は美しさが反比例しちゃってる気がします。ますますキュートに変貌する金原さんに比べて、ますますポッチャリ林真理子化する綿矢嬢…。首なんか高砂親方状態だし…。あ、話がだいぶそれてきたので戻します…。

特にルイとアマとのラヴラヴぶりがたまらない!。彼女には男なら誰もが甘えたくなるし、守ってあげたくなる愛おしさを感じました。アマを失った喪失感から酒をあおってボロ泣きして、舌により大きな穴をあけ拡張ピアスをはめて、遂には城卓矢みたいに「骨まで愛しちゃう」彼女には正直ヤラレマシタね~。そこまで愛されたいです(笑)。より痛くする事で、悲しみを癒せるのだろうか?。ほとんど、ビョーキ。なんだか、私は今日から“吉高病”にかかったかも…。

アマを演じるのは高良健吾。『ごくせん』や『ウォーターボーイズ 2005 夏』にも出ていたそうです。真っ赤な髪を刈り上げた、長身のイケメン・ピアスだらけ男のカッコ良さにも目が離せません。深夜のセンター街での乱闘シーンの迫力がハンパじゃない!。藤原竜也演じる暴力団員を本気で半殺しにしていて、痛快でしたね~。この狂気、実生活でも発揮してるのかい?と、心配になりそうな名演技でした。SHIBUYA TSUTAYA前で彼女に弱さをさらけ出し、泣き崩れる情けない姿には泣けたなぁ~。哀れなカップル。ピアスよりも痛かった。望遠レンズで遠くから見つめられてました。


テレビのニュースで、アマが殺人罪で警察に捜査されている事を知ったルイは、慌てて何も知らない彼の髪の毛を黒く染め直すのです。聞かれても理由を語らないルイが切なくて、胸を締め付けます。

そしてスキンヘッドで全身刺青姿のシバを演じるのは、なんとARATA。『ピンポン』で共演した窪塚洋介や中村獅童も恐れおののく不気味な怪演に、凄みを感じちゃいました。ホントに首締めて吉高さんを殺しそうだったもん!。しかも興奮すると、ちゃんとパンツを“まりもっこり”させちゃってたのが、凄かった(笑)。宮崎緑もビックリの、フレキシブルな対応でしたね。今年で役者デビュー10周年。既に演技派でしたね。『ピンポン2』が楽しみだな(笑)。

刺青を彫るシーンもしっかり描かれてます。私も川崎での刺青祭に参加した事がありますが、もうあの♪ジリジリジリジリ…という音を聞いただけで耳が痛くて鳥肌立った記憶を、鮮明に思い出しちゃいましたね。彫る前の晩は睡眠を充分にとって飲酒は控えて、彫った後はカサブタになるまで一週間お風呂に入らない…。そうなんだ~。痛さをこらえる主人公ルイが、なんだか気持ち良さそうに見えてくるんです。

ルイの友達役のあびる優のオチャラケ加減(たぶん、素のまま)も印象に残るし、コンパニオン・バイト仲間のソニンと仕事さぼってる時に、叱り飛ばす上司・井手らっきょのシリアス演技にはぶっ飛んだ。そんなニナガワ人脈なゲストも豪華。殺される藤原君は『カメレオン』よりも自然でイキイキしてたし、警察官の唐沢寿明にも存在感に重みがあったし、アマの死因を調べる髭面の市川亀治郎の嫌みな態度も素晴らしい。師匠の前では、みんないい味出してました。あれっ?、小栗旬はどこに出てたの?。

確かに観ていて痛くなる映画なんです。だけど、それは性行為ではなく、舌に穴をあけてピアスや糸を通したりする場面。「うわっ~!、それ以上舌引っ張らないで~。裂けそう!」と、血が滲む生々しさに、思わず目を背けたくなりましたが、どうやらリアルなCG処理で作成されたみたいです。ホントに、驚きました。

ただ遺体安置所でのアマの傷ついた遺体ですが、肝心な“線香(お香)が刺さったペニス”が、映像化されてなかったんですよね。もちろん、しなくてもいいのですが、どんな状態なのだろう…?と想像力をかき立てる余裕(隙間)もあるのが、この映画の良さ。ゆったりと、そしてしっかりと感じさせてくれた123分です。

結局、シバが殺したのかどうなのか、結論が出ないまま終わってしまいます。ラストは、早朝の渋谷ハチ公前交差点。小柳ルミ子が前の夫とゲリラ・パフォーマンスした事でも知られる場所で、うずくまったまま動けない彼女のその後が気になりますね…。

なお交差点での撮影は、冒頭は昨年9月に行われた模様。109には大塚愛のニュー・アルバム『LOVE PiECE』広告。SoulJaの「ここにいるよfeat.青山テルマ」も目立つ。ラストは浜崎あゆみ『GUILTY』広告が出てきたので、昨年末だろうか。

9月、シネマGAGA!ほか、全国ロードショーです。

http://hebi.gyao.jp/