藤沢周平原作『山桜』【ネタバレ大噴火】。 | アイス ラヴさん。の甘く危険な映画日記。

『たそがれ清兵衛』『隠し剣 鬼の爪』『蝉しぐれ』『武士の一分』と続く、藤沢周平作品の映画化最新作が、構想7年で遂に完成しました。素晴らしい!。心にジ~ンとくる良く出来た映画でした。

原作は20ページの短編なんですが、篠原哲雄監督の丁寧な職人技が光りまくる、適材適所の俳優陣の競演に目が離せない、99分間ビシッと引き締まった、“ラヴ・ストーリー”時代劇でした。『蝉しぐれ』撮影で建設されたセットを利用した庄内映画村と、長野市で撮影されてます。風光明媚なロケーションが郷愁を誘って、“藤沢的”で素敵です。

藤沢文学ならではの、愛する人や庶民のためなら刀を抜いてしまう侍の話を、愛する女性の立場から描いているのが、新鮮でした。ただ、そこがヒロインを中心とした“アイドル映画”になったった後半には、評価が分かれるかもしれません。

江戸末期の庄内で、バツイチ女の野江23歳が大きな満開の山桜を眺めています。野江は最初の夫に先立たれて、磯村というゴマスリ侍の家に嫁いで、馴染めずにイジメられ続けて絶望のどん底。“夜の生活”でさえ、必死に拒み続けていました。

そんな時、彼女に優しく接して来て、桜の枝を折って差し出してくれた男前な侍が現れたのです。彼の名は手塚弥一郎。実は過去に一度も合う事無く縁談を断ってしまった相手だったのです。彼は野江の事を一途に思い続けていたと、後で聞かされ動揺するのです。 それから彼を思うだけで、心が楽になって行くのです。

時代は大恐慌。諏訪という藩の重臣が、新田開発を唱えて、お国の為に年貢をタップリ納めるよう農民たちを圧迫。表向きは財政悪化の解消だが、裏ではその蓄えで豪邸を建てるなど私腹を肥やしてた事実が明らかに!。ぶら下がる磯村家はウハウハ状態。不作続きで老人や子供までもが餓死していく状況に、我慢出来なくなった弥一郎は、機が熟してから遂に刀を抜いて、諏訪を斬ってしまうのです!。

弥一郎をかばう発言をした野江は磯村家と離縁し、実家に戻る。弥一郎の切腹は来年春まで先延ばしに。そこで減刑を願う野江は、我慢出来ずに弥一郎の母を訪ねて、今まで押さえていた愛する気持ちを吐き出していたら…あっ!。…っていう話なんです。

まるで、現代の大増税&暫定税率問題や、政界の不祥事を連想させる内容に驚きます。いつの時代にも普遍なんでしょうか?。う~ん。

野江役の田中麗奈は、最初カツラと着物が似合わなくて「コスプレ?」と思いましたが、話に引き込まれる内に、気にならなくなります。男尊女卑が激しいこの時代で、離婚歴のある出戻り女の哀しみを、見事にキメ細かく熱演。あのツンツン娘の役がお似合いな彼女が、ジィッと耐え忍ぶ健気な愛しい役柄なのだから、いいんですよね。

母親役の檀ふみが恐ろしいほど素晴らしい。愛の無い政略結婚の辛さが身に染みていて、結婚に失敗した娘に、自由に生きろと陰ながら応援している姿勢に涙。父親役は「誰?」と思ったら、なんと篠田三郎。チョンマゲ姿じゃ別人。『ウルトラマンタロウ』から35年です。

弟役の北条隆博も、姉思いな正義感が良い。木刀での稽古シーンも真剣そのもの。彼に「重臣の不正を分かっていながら、なんで見て見ぬフリをするんだ!」と熱く訴えられて、「お前は、まだ何も分かっていない」と感情を殺しながら話す父親の篠田を観てたら、なんだか星野仙一にダブって見えて、少し笑えました。諏訪役の村井国夫や、磯村役の高橋長英とその母役の永島暎子も、強烈な印象を残します。

出戻り野江を、顔には出さないけれども温かく迎えてくれた、家族のさり気ない優しさの数々に、しんみり来ちゃいました。カブを漬けたり、笹の葉でチマキを作ったりする料理シーンも、味わい深くて良い。やっぱり、藤沢周平映画作品はストーリーに直接関係ない所も、ホントに丁寧に作られてますね。

弥一郎役の男優は、最初「東山紀之?」と一瞬思ったのですが、あ~あ『蝉しぐれ』に引き続き、市川染五郎か~。それにしても、オヤジ(松本幸四郎)に似て来たな~と思いながら、エンド・ロールを観ていたら、なんとヒガシで間違いなかったんです!。

いや~殺陣も気合い入ってて、身のこなしが軽やかなんだけども、最後まで彼とは気が付かないほど、寡黙なイケメン侍役になりきってました。なんたって冒頭で野江に話しかけた後は、全くと言っていいほど無言になっちゃうんです。あえて話さない沈黙ぶりが、セガールよりも逞し過ぎる!。貧しい農民にもオニギリを分け与える心優しき侍が、現地視察(散歩)しながら、じっくりその時を待って耐えて耐えて耐え抜いてから、正義のテロ活動にたった一人で立ち向かう訳です。この辺の互いの行動の駆け引きも、緊張感漲っていて見応えがあります。 しかも、斬るのは諏訪だけ。部下たちには刃を向けず、素手で倒す所にもグッと来ます。

「あんな事やって、何の意味があるの?。金にもならないし、切腹するだけじゃん」と磯村にコケにされますが、お金で買えない大きな意味があったのです。これは許されるテロ行為だと、私は思います。

ジャニーズ事務所が、主役でもないのによく出演OKさせたなと思って、信じられなかったんです。でも、彼は今回みたいな一歩引いた扱いの方が、光りそうな気がしました。3年前に主演した『MAKOTO』が残念だったのは、彼の魅力でもあるアクションやダンスの要素が全くない役柄だった事。これで役の幅が広がりましたね。

そんな一連の動きを、野江の秘めた思いから語って行くのです。2人は満開の山桜の木の下で一度しか会っていないのに、なぜここまで思っていられるのか?。やはり、心が通じ合ったのかもしれません。運命の糸って、見えないけど、繋がってるんですね。

弥一郎の母親役の富司純子とのやり取りも絶品!。ここでの涙に思わず「もらい泣き」と思った瞬間、なんと一青窈が歌う主題歌「栞」が流れて来るのです!(3月5日発売4thアルバム『Key』に収録)。これが最高。『蝉しぐれ』に続いて再登板です。彼女ならではのラヴ・ソングが、愛する人への思いをさらけ出せた後の野江の涙と、その後の行動にピッタリとハマっていました。あの歌声には、気持ちを押さえられなくなりそうな高揚感を覚えますね。

残念なのは、たぶん原作通りだと思うのですが、ここで話がプツリと終わってしまう事なんです。『たそがれ清兵衛』みたいに結論づけてくれた方がいいのに、中途半端な気がしました。果たして、ヒガシは死んだのか?、それとも?。結末は観客の手に委ねられました。

ただ、田中麗奈のアイドル映画という観点で考えると、これで大正解なんです。だって、後半はモロ名作『はつ恋2』なんですもの!。同じ監督・主演コンビの、初の時代劇での再会だけに、必然的にそうなったのかもしれません。愛する人を待ち続ける野江の祈りの数々の積み重ねを観てると、妙に愛おしくなっちゃうんですよね~麗奈が(笑)。私が弥一郎で、あんな事されてたら、きっと涙が止まらなくて、再会出来たら最低3時間は抱きしめたままでしょうね。他人からどう思われようとも。なので彼女のファンには、たまらないでしょう。

篠原監督のデビュー作でもある、山崎まさよし主演『月とキャベツ』から今年で12年目になるんですね。

2008年初夏(5月)新宿・テアトルタイムズスクエア他、全国ロードショーです。