‐10話‐ 天国から 地獄へ | 胆道閉鎖症の息子と歩む日々

胆道閉鎖症の息子と歩む日々

一万人に一人の確率でなる難病「胆道閉鎖症」を患った息子と歩む闘病記。





漠然とした嫌な予感から

 私はまた

サイトを読みあさり 朝を迎えた。







病院の夜は長く 

静かで  暗くて 大嫌いだった。







明け方になり 明るくなると

ホッとした。











―――そして     

8時頃 先生が来た。




前日の言葉を 確かなものにしたくて

本当に 先生の所見では 可能性は低いのか

何度も 聞こうと思った。




しかし

医療の現場 において

「絶対」は ない。

どんな返答が返ってくるのか 想像はついた。






聞こうとする度に

言葉は 溜め息に変わった















『今日は MRIを撮りましょう』




それまで何度エコーをしても 見えなかった

「胆嚢(たんのう)」を 確認するためだった。



















「先生。もし これで

胆嚢が 確認できなかったら

どういうことに なるんですか…?」




















『んー…胆嚢が 萎縮(いしゅく)

してるとなると、

逆に 胆道閉鎖の可能性は 高くなるね。』


















(………は??)






先生の言ってる意味は すぐに理解できた。








ただ


昨日 あれほど喜んでいた

自分に対する 虚しさと、

なぜ、昨日の時点で

あんなに 期待することを 話したのか

という 先生に対する 怒りが

沸々と 湧いてきた。















(でもまだ、胆嚢が 確認できないと

決まった訳やないし…)








(とにかく 早く 結果が知りたい!)















検査は 夕方することになり、

それまでは 「絶食」しなければ

ならなかった。




胆道シンチの 検査の時も 絶食だった。














絶食になると

息子の泣き声が 

病棟中に 響き渡った














小さな身体で

必死に ミルクを求め

泣き続けた













私は 絶食が 大嫌いだった。















昼過ぎに 看護師さんが 

眠るための薬(トリクロ)を もってきた。



[トリクロリール シロップ(トリクロ)]

中枢神経に働いて催眠作用を示す薬。
通常、不眠症の治療や
脳波・心電図検査などにおける
睡眠に用いられる。










哺乳瓶の乳首に 薬を入れて 口にふくませた。



この薬は 甘い香りが とても強い。





しかし 嫌がるどころか

必死に 吸い付き

ものの数秒で 飲み干した。









お腹が空き過ぎて

薬だろうと 味は もう関係なく

何でもいいから 飲みたかったのだろう







そんな姿が 辛くてたまらなかった





飲み干すと

さらに強く 泣き出した。










母として

言葉も喋れず

手振り身ぶりで 訴えることも

できない我が子を 目の前にして

 

お腹を満たして あげられないことは

例えようのない 辛さだった。









「まだ飲みたいよね…待ってね ごめんね…」

なだめながら 涙が溢れた。














薬を飲んで 10分程経った頃

検査室に 案内された。









泣き疲れたのと 薬が効いてきたのとで

移動中に 息子は眠った。











ずっと 泣き声を聞いていて

心が砕けそうになっていた私は

少しだけ ホッとした







(よかった…眠ってる間は   

つきちゃんも 辛くない…) 


















1時間程で 検査は終わり

暫くしてから ミルクの許可もおりた。









嬉しそうに 一生懸命

ミルクを飲む 息子をよそに

私は 結果が気になって 仕方がなかった。






















―――そして 先生が

部屋をノックして入ってきた。
















それからは









どんな 言葉で 伝えられたのか

どんな 会話をしたのか

覚えていない











覚えているのは














「胆道閉鎖症の可能性が 極めて高くなった」

こと。

























地獄から 一気に 天国に…





そして





天国から 一気に 地獄に…




突き落とされた 感じだった。














その晩は もう何も

考えることが できなかった








気持ちが 全く追い付かなくて

考える余裕など ある訳がなかった


















力も入らず










泣くこともなく
















私は 再び








「抜け殻」






に なった。