☆掌編小説「出所祝いにもう一発!」


 「出所祝いにはこれだ」と、隊長は散弾銃を一丁くれた。革マル派の若者たちを五人殺して禁錮五年で出してくれたのも、相手が過激派に属していたからにほかならない。

 「この散弾銃は、何に使うのですか?」と、私は隊長に尋ねた。

 「まあ暫くは人には使わぬ。その時になったらワシが伝える。それまでは、女遊びでも図書館通いでも、バー通いでも好きなようにさらせ」
 そして一言付け加えた。

 「但し、クレー射撃練習は毎日二時間しろ。金三百万はここにある。当分足りるよな。散弾銃使う仕事では、この十倍積む!」と、言う隊長に私は

 「はい、ありがとうございます」

 翌朝は気持ちの良いピーカン。散弾銃を片手に新車のパジェロに乗り込み、いざクレー射撃場へと。これが三ヶ月続いた頃、私は隊長に呼ばれた。
 隊長は開口一番
 「実は新左翼に人気の毎朝新聞社を、テロって欲しいのだ。ギャラは前に言った通り。その後は、暫く海外にでも飛んで欲しい。日本から去れ!」
 「また過激派殺しですか? 私の専売特許となりましたね。それではどこの?」
 「西宮市の阪神支局社のブンヤ三人に、受付嬢一人の計四人勤め。全員殺ってくれ。場所はここ」と、地図を広げて組長は赤く囲まれた場所を指し示す。
 「アイアイサー!」

 「これでマスコミも大パニック。さすが組長、うちは右翼団体赤報隊ですからね。これだけの右翼テロを起こせば、フィクサーからもお金が入ってきますね。そして、総理大臣からも」と悦に入る私。

 「成功すれば、赤報隊始まって以来の快挙。日本を右傾化させるには、これが一番良い薬になる。味方にうちのスワット三人つける。計四人。敵は丸腰だ。然し抜かるでないぞ!」

 事件当日。私たちはパジェロのナンバープレートを差し替えて、仕事終わり近くの午後四時半に到着。パジェロに一人残し、三人がケースに入った散弾銃を持ち、阪神支局に入る。

 自動ドアの玄関から入るなり、私は叫んだ

 「天誅だ!」

 目出し帽から勢いよく飛び出る快哉に、我ら三人は、一斉に散弾銃を三人に向けてぶっ放す。

 「ヤメテ!」と、受付嬢の驚愕の叫び声が轟く中、私は彼女の顔をクロロホルムの付いたハンカチで覆う。

 私の撃った銃弾は見事、川尻記者の頭蓋骨を粉砕し、血しぶきが飛び散った。他の一人は腹を撃たれ気絶する。そして残る一人は心臓を射貫かれて、うつ伏せに倒れる。恐らく即死であろう。

 「退散!」と、私の掛け声に、残る二人もついて来る。阪神支局社の周囲を廻るパジェロが戻ってきた。外は平穏無事な様子だ。実弾の音も悲鳴も、外には聞こえない。凄い防音対策!
 「出所祝いにもう一発も一人眠らせたが、大成功! そして、うちの犯行声明も発表された。明日から株も上がるぞ!」と隊長も気炎を吐いて

 「乾杯!」

 『君が代』の大合唱

 この大和のまほらまから、新左翼の過激派も消え失せる。これも我ら右翼団体赤報隊のお蔭である。そして、その後彼ら四人の姿は日本から暫し消える。

 それが、15年間と言う時効成立までの間。然し、それ以降も右翼テロは、日本の各地で起こったと言う。

(了)