☆掌編小説「アンチ・ワクチンは愛を招くか?」




「今日あの日なの?」「何だ生理日か?」「違うの。新型コロナ・ワクチン接種の日」「俺も。注射嫌いの俺にとっちゃ、青い日だな」

 こんな会話が、薬剤師の男と医師の女にはお似合いであった。そう、今日は第5回新型コロナ・ワクチン接種の日。お互い4回目までは、何の副作用もなく打ち終えたこのワクチン。5回目に難色を示したのは、実は女の方。

「やはり打つ前に、セックスするの良くないわ。副作用が心配」「そんなの関係ないのは、打つ側の君の方が一番よくご存知の筈」「でも私には解せないわ。じゃ取り敢えず、お酒でも飲まない。そうしないと、そんな気分になれないわ」

 そして二人は居酒屋へ。そこは、マスクだらけの酔っぱらいの群れ。昼下がりに、アベックで飲酒なんていない筈。

「私ね、このところヘマばかり。昨日なんて、マスクしないでワクチンを打っちゃったのよ。患者さんに言われて、すぐつけたけど」「俺も。胃腸薬を入れる筈が、睡眠薬を薬の袋に入れてしまった。再チェックする薬剤師に、咎められたけど」

 頬の少し紅い二人は、いつものように仲良く手を繋いで、ワクチン接種会場へ。

「凄い行列ね。何だか打たなくても、いい感じしてきた。」「俺も。それより、このままあそこのホテルにしけこまない」

 そして二人は、ホテルの回転ドアを押した。とその時、女のハンドバッグが回転ドアに挟まれた。彼は逆回転させて、ハンドバッグを取り出す。

「あなた頭良いわね。私と仕事交換しない」「いい発案だね。それより早く、チェックイン済まそうよ」

 二人はこうして新型コロナワクチンの注射もせず、快楽の注射を打つべく、ホテルの部屋に入るのであった。

「ホテルで、真っ裸の男女の死体が発見されたらしいな」「また新型コロナですかね」

 救急車のサイレンと共に、パトカーも駆けつける。降りて来たのはデカ。回転ドアを押して、すんなりと通る二人。

「指紋取るから、みんな手袋しろ。このご時世だから、マスクは既に装着済みだな」「ハイ、ところでこの男、性器にゴムの装着がないのは、夫婦の証ですかね。まだ精液は、発射されておりません」

 ベッド上の男の裸の男性器は、勃起したままの死後硬直。女も、真っ裸のそれに近い状態で横たわっていた。

「死亡時刻は、女の方が一時間遅いですね」「ということは、女が男を殺し、後を追った」

 検死官二人の会話に、上司のデカが一言。

「死因を調べろ」「はい、わかりました」

 ここは、警察署の死体置き場。デカ二人は異口同音に

「死因は新型コロナ・ウイルス!」

デカA「この二人、第5回の新型コロナ・ウイルスのワクチンは打っていたのか?」

デカB「いや、それはホテル近くの接種予約した病院で、既に調査が済んでます。打っておりません」

デカA「やはりそうか。これは、殺人事件ではなかった。この死因が、何よりもの証拠だ」

と、検死官の報告書には、「新型コロナ・ウイルス」の記載が。

デカB「然し、病院関係者がこんな不始末を犯すとは、灯台下暗し。この国も地に落ちたもの」

「ところで、いつものラーメン屋で夜食を摂ろう。どうせ経費で落ちる」

 ここは中国は上海。事件の「落ち」は、新型コロナ・ワクチンで片が付いた。

そして

デカA「やはりアンチ・ワクチンは愛を招かずに、死を招いてしまったか」

(了)