暫しの自堕落な生活の後、体調の急激な変化により両脚の動きが覚束ない。「このまま、車椅子生活に落ち着くのだろうか?」の自問が導く答え「余命を如何にして生き抜くか?」という、どこか齟齬をきたす命題に筆者のポジティブな装いの一端が現れる。
   そこで朝刊の千葉地方版に「静かにブーム」という、大見出しの記事の一つに目が留まる。何と、勝浦で太極拳がもて囃されているらしい。この緩慢な動きが、身体の柔軟性や心肺機能向上に一役買っているそうだ。
   元々は中国武術として、シニア層を中心に輪が広がった「太極拳」。首都圏から千葉・勝浦への移住者の間でも、今やこの武術はまさに花盛り。
   筆者はブルース・リーによるクンフー・ブームにあって、中学生の時「少林寺拳法」に凝った事がある。彼こそは、我が師の一人として君臨していたが夭逝。気づいた時には、もうこの世にはいず。映画「燃えよドラゴン」は、アクションを芸術の位置にまで高めクンフー映画ブームの先鞭を付けた、まさに傑作と呼んでも過言ではない。
   然し、実は中国武術を映画に導入した映画監督としてキン・フーの名は忘れ難い。「大酔狂」や「山中伝奇」、そして「侠女」などの作品にはクンフーの伝統が息づいており、この伝承物語はタランティーノ監督へも多大なる影響を及ぼしている。
   話がだいぶ逸れた。元に戻すと勝浦を「担々麺」の地と知悉していた筆者には、今や「太極拳」の地としても君臨しているというこの朗報に胸が高鳴る。一度も訪れていない勝浦で、下半身不随に陥る一歩手前の筆者を、「太極拳」は静かに待っていてくれるだろう。
(了)