近来稀に見る傑作映画『海炭市叙景』の中で、北海道の街の再開発に伴い立ち退きを命ぜられるお婆さんと彼女が飼育する沢山の猫達の挿話を、熊切監督は恰も其がドキュメンタリーかの錯覚を抱かせる程の、寒さに震える彼女の毛穴迄をも見透かせる位の、実に丹念なリアリズムで描き度肝を抜かされた記憶がある。
   お婆さんと謂えば、少子高齢化により過疎地での身寄りのないお年寄りの増加と、その孤独死の無念が叫ばれる。其はマスコミでは滅多に取り上げられぬ、今や日常茶飯の出来事。そんな悲劇を払拭する記事を、今朝の新聞に見つける。
   中学生と老人達の絵手紙活動。ここには一人暮らしのお年寄りへ様々に色塗りされた絵と共に、それに纏わる文章を書いた絵手紙を手渡す取り組みが書かれている。
   電話からメールへと変容するコミュニケーション・ツールの中でも、手紙の存在は年々希薄化されている。只の文章だけでなく個性的な絵も楽しめる絵手紙の存在は、ビジュアルなインターネットとは趣を異にした好印象をお年寄りに与えるだろう。
   過疎地での一人暮らしには、先述の映画のお婆さんのように猫との共存共栄だけが頼り。此からの日本は老若男女や外国人など多様性に溢れた横の繋がりを大切にした共同体の概念を注入する事で、成立する社会の実現化が求められてもいよう。その為のこの活動は、実に有益であり子供達の人間形成に一役買っている事は、間違いないと謂えるであろう。
(了)