2009年・2011年のドラマ「JIN ‐仁‐」が、全国的に再放送されています。
ここ名古屋では、5月の土曜日・日曜日に放送されています。幕末にタイムスリップした男性医師・南方 仁(みなかた じん)を主人公とする物語。
「現代医療の知識・技術・薬品を用いて、病に苦しむ江戸時代の人々を救う」というのが骨子となっています。良いドラマです。流された音楽とともに、印象深く見ています(5月30日・31日に完結編の放送あり)。
5月24日放送分では、「歌舞伎役者の鉛中毒」を取り上げていました。白粉(おしろい)による、慢性中毒です。治療は困難です。
『人格の変化・頭痛・感覚の消失・歩行協調障害・嘔吐・けいれん性の腹痛・骨や関節の痛み』などの不調が起きます。
治療にあたった主人公(江戸時代にタイムスリップした現代の医師)は、協力者である江戸時代の医師に訊ねます。「漢方薬で、鉛毒を体外に出す事が出来るものは何ですか?」と。
患者の病状によって、対応薬は異なります。一瞬ためらった後、こう答えていました。『あらゆる中毒に効く、柴苓湯(さいれいとう)』『植物中毒に効く、四苓散(しれいさん)』『毒による発熱を抑える、荊防敗毒散(けいぼうはいどくさん)』と。
それら漢方薬の、本当の薬効に付いて記します。
その前に、基本的な漢方対応について。
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【何らかの中毒に用いる、漢方薬】
いまが江戸時代中期頃までの時代であると仮定して、すべて漢方で対応するならば。
何かの毒素が身体に入ったばかりと考えた時。それを「排出する事」に全力を注ぎます。どんな生薬を用いるかを、考えます。漢方を学ぶ方なら、頭の体操になりそうです。
毒を排出する
・『便として排出《使用生薬:ダイオウ(大黄)、ボウショウ(芒硝)/瀉下薬》』
・『尿として排出《使用生薬:チョレイ(猪苓)、タクシャ(沢瀉)/利水薬》』
・『吐かせて排出《使用生薬:エンレイソウ(延齢草)/吐薬》』
・『汗として排出《使用生薬:マオウ(麻黄)、ケイシ(桂枝)、ケイガイ(荊芥)、ボウフウ(防風)/解表薬》』
その他
※身体の中で分解を試みる方法
・『サイコ(柴胡):腹部不調、微熱反復、寝込む事も多い状況に/和解薬』
・『キンギンカ(金銀花)・レンギョウ(連翹):高熱、ノドの痛みなど、ウイルス感染症思わす状況に/清熱解毒薬』
・『ゴオウ(牛黄):精神不調(狂躁、独言)、強いのぼせ/開竅薬→精神安定薬』
・『ブシ(附子):著しく衰え、冷えを強く感じる、危篤/補陽薬、回陽救逆』
・『シュシャ(朱砂)』:ケイレン、狂躁など/麻痺させてしまう→水銀)
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それでは、劇中の漢方薬の説明です。
上記の薬効を参考にして、以下をご覧ください。
◆ 荊防敗毒散(摂生衆妙方)
【薬効】辛温解表・去風湿・止咳化痰・止痛
汗を出させるのが、主薬効です。体表を温めて汗を出させる事で、「寒気カゼ」「皮膚のかゆみ」「突然のめまい、卒倒」などが治る事を、漢方の世界は知りました。
※【汗と一緒に、体表から毒性排除をしようとする(生薬:ケイガイ・ボウフウ)】
※【体内で解毒をしようとする(生薬:サイコ)】
◆ 四苓散(四苓湯)(丹渓心方)
【薬効】健脾止瀉、利水除湿
傷寒論に記される五苓散(ごれいさん)から、ケイシ(桂枝)を抜いた漢方薬。
むくみなど、水分代謝の悪化に用います。
五苓散は現代でも活用される漢方薬ですが、四苓散は用いられる事はほとんどありません。
※【尿を出す事で、毒性を排除しようとする(生薬:チョレイ・タクシャ)】
◆ 柴苓湯(世医得効方)
【薬効】和解半表半裏、通陽利水
「慢性病による衰弱状況や、カゼがこじれて寝込む状態(お腹が張る、悪心嘔吐、微熱の繰返し などの不調)」に用いる小柴胡湯と、「嘔吐、浮腫、下痢」に用いる五苓散を、2種あわせた漢方薬です。
※【体内で解毒をしようとする(生薬:サイコ)】
※【尿を出す事で、毒性排除をしようとする(生薬:チョレイ・タクシャ)】