6月7月、仕事を抱え込みすぎて、マルチタスク状態になっていた。
産業医をしている事業所の人達に講義をするのだが、暑い時期だからと『熱中症』や『食中毒』をテーマに紙芝居屋さんのようにどこにでも同じ話をして済ませるわけにはいかないのが辛いところ。
可能な限り共通のテーマにして負担を減らしたいが、例えば『熱中症』について話す場合も、製造業の職場であれば、予防法であったり、応急処置に重点をおかなくてはならないし、介護職に対してであれば高齢者の熱中症に早く気づくポイントについて話しておかなければならない。相手のニーズを察し、それに応えることが顧客満足度につながる。だからどんな要望であっても、できませんとは言わなかった。
しかし今回は工場長達を対象に『化学物質による健康障害予防対策の推進』について話してくれとか、清掃業の方々に『転倒予防』とか、『エイジレスフレンドリー』について詳しくだとか。ストックのないテーマが重なった。週1回または2回のペースで新ネタを披露するのだ。初めて「無理かもしれない」と思った。スライドだけでなく、配布資料も作らなくてはいけないのだ。
そのうえ、突然「面談をお願いします」が3件あった。メンタル不調が疑わしい人や、長期休職から復職する人。でも、話をしておしまいではないのだ。状況を(本人の同意を得たうえで)上司に伝えたり、人事担当者と今後の勤務体系の調整をしたり、報告書を書いたりしなくてはならない。
複数の事業所が1人の私に対してそれぞれ定額使いホーダイプランを思いっきり使っている。彼らにとっては1対1(会社対私)だから、それは当然の権利だろうが、私からは12対1(12社担当していて、来月からは13になる)なのだ。ケチな話をすると、収益は全て私の所属している組織に入り、私には還元されない。かなりの金額であることを最近知った。もう診察も読影もしないぞ、産業医1本でいける、労働衛生コンサルタントとして独立開業しようかとまで考えたくらいの額だった。
私の職場もまた、私の定額使いホーダイプランを思いきり活用して、どこよりも一番得をしているわけ。
通常業務も行いつつ、とりあえず同時進行で複数のテーマのスライド作りに着手する。
こちらの事業所の内容に行き詰ったら、他のところのスライドを作り、それに飽きたらまた別のスライドを作り、配付資料の内容をまとめていくことで無駄なスライドは削っていく。
夢の中でも作業しているので、何がどこまで進んだのか進捗状況がわからなくなってきた。
ある日卓上カレンダーを見て、「げ!」と思った。この会社にも行かなきゃならなかった。それも来週!
スライド作っていないよね?いや、作りかけた。ずいぶん前に。だから、どこまでできたかわからない。下手したらタイトルだけで終わっているかも。
間に合うかな、ドキドキドキドキ。
その会社のフォルダを開き、スライドを探す。
震える手でクリックしたら・・・
えっ?!
出来てる!
いつの間に?
(靴屋のこびとさん、ありがとう!)
ああ、良かった。でもいつの間に作ったのだろう。
知らない間にできていた。全然記憶がなかった。
このエピソードは、長い長い前振り。
(本当に延々と書きました。)
バイオリンのお稽古の話に戻る。まさかの『強制終了合格』のあと、「次の曲をどうしましょう?」と言われ、何も思いつかなかった。まだ合格するつもりがなかったから。
とりあえず鈴木のテキストに戻ろうかとなったのだが、あまりに悶々としながら迷走していた時期が長くて、以前何を弾いていたか記憶がない。
「あの曲、弾きましたっけ?」
と先生。
「うーん、譜読みはした記憶はあります。多分、私、ここをまた息止めて一気に弾くなと思った箇所があるので。」
ただ、その前の曲がいつまでも合格できないので、煮詰まってしまって、気分転換に譜読みして、ついでにちょっと弾いてみたのかもしれない・・・。(さすがにそれは言葉にしなかった。)今回のスライド作るときみたいに。
ちょっと待ってください。今、テキスト持っているから確認します。
え?ええええ??
「先生、知らない間に合格していました。」
これは靴屋のこびとの仕業ではないね。
多分、意外にあっけなく合格したから、記憶に残っていなかったのだろう。
物忘れがひどくなっただけかもしれないけれど。それはそれで心配だ。
さあ、次の曲はどうする?
(その前に、こびとさん、こびとさん、部屋を片付けてくれないかなあ。)