角野さんのコンサートの話を、あと少しだけ。
アンコール曲。
「先日セレナード(小夜曲)を作りました。夜といっても、朝に近い夜の曲です。
まだ曲の名前も決まっていないのだけれど。」
命名される前の、生まれたての瑞々しい曲を聴けるなんて、嬉しいな。
そう、もうすぐ朝。濃紺の空に星がまたたいている。少し肌寒い、
澄んだ、しん、とした空気。静かな時間。
東の方角の、空と土地の境界がほの明るくなって、薄薔薇色のラインができる。ゆっくりとゆっくりとその幅が広がっていく。
目を閉じなくても、光景が思い描ける曲だった。
思いがけず、“夜絡み”(?)の曲をその1週間後に聴くことになった。
しいきアルゲリッチハウスでの『シューマン その心を聴く』。
アンコール曲はピアノの阪田さんが選んだ、『夕べのうた』だった。
本来はピアノ連弾曲だが、今回はヴィオラとピアノで。
弾く前に川本さんがマイクを持たれた。
この1年のうちに、アルゲリッチに縁のある方が2名亡くなられた・・と話す途中で声が震え、お顔が少し歪んだ。もう1人の方はアルゲリッチのピアノを調律されてきた方と後でわかったが、1人は小澤さんだ。
小澤さんは川本さんに厚い信頼を寄せておられた。訃報のあと、彼女はSNSに思いや思い出を綴ることはしなかったが、それが悲しみの深さと、小澤さんが川本さんにとって大切な大切な大切な存在であることを語っていた。
曲が始まる。
穏やかなひととき。充実した長い長い1日を終えたひととき。
空はその人の生きざまのような情熱の色に染まっている。
やがて夜の色が加わり、空の赤は円熟した色に変化していく。
そして静寂。
声にならない、言葉では語りつくせない思いをこめた音色。
アンコールの2曲目は、アルゲリッチ音楽祭のテーマソングみたいな曲ですと、映画『ピノキオ』から『星に願いを』。
アルゲリッチ芸術振興財団は、設立を機に、子供たちへの無料コンサートを数多く主催している。ピノキオが他の登場人物に導かれ「良心」を育み、豊かな心をもった人へと成長していく様子に因んで、それらは『ピノキオコンサート』と命名されているのだ。
夕焼け空が夜になった。
一番星が光った。
小澤さんを知る人への道標のように、星は輝く。
輝き続ける。