今日は、ワシントンDCの日本大使館でパーティーがあった。
女公様は仕事上のつきあいで東京の各国大使館のパーティーにおよばれする機会は多いが、海外にある日本大使館のパーティーに、ホスト側のはしくれとして参加するのは初めてである。
この話が来た時、やっと着物を着る機会ができたと喜んだ。
アメリカに赴任してくる直前の半年間、付け焼刃でならった着付けであるが、思ったより和服を着る機会がない。
おう、受付でも荷物係でも誘導係でも、なんでも言いつけてくんな。
二つ返事でお手伝いに行くことを承知したが、あとになって、
誘導係はちぃと無理かな・・・。
と考えた。屋内外を問わず無敵のパワーを発揮する方向音痴っぷりを考えれば、女公様が初めて行く大使公邸で、正しい誘導ができるとは思えない。そう思って念のため、何をすればいいかと聞くと、
ああ、受付だの誘導だの下足番だのは若い奴らがおりやすんで、姐さんは、お客人にまじって会場を盛り上げておくんなせぇ。
と言われた。
なんでぇ、おいらじゃ受付やるにゃあ、若さが足りねぇとでも言うのかぇ。
とからかうと
いや、姐さん、そんな、そういう意味じゃありやせんぜ、こりゃまいった、どうぞお気になさらず、中で飲み食いしておくんなせぇ。。
と言われた。
飲み食いなら得意中の得意である。
女公様は基本的に内気で無口で人見知りでシャイなのであるが、仕事となれば会話で盛り上げ役に徹するのも大した苦痛ではない。
なんといっても女公様が今日一番苦痛だったのは、化粧をしなくてはならないことであった。
夏の浴衣と違って、やはり和服にすっぴんというのはまずいだろうか。
普段、職場でもほとんどすっぴんだと気づいて指摘する人はいない
から、別に構わないだろうか。
だが待てよ。
今日のパーティーは女性も多いから、男性ばかりの女公様の職場と違って、すっぴんを見破られるかもしれない。
ちょいと見てごらんな、あの人ったら、化粧もせずに大使館のレセプションに来てるよぅ。場違いだねぇ。
などと言われてもつまらない。
女は人前に出るときは化粧をすべき、とは全く思っていない女公様にとっては甚だ不本意だが、ここは大勢に従っておくのが賢明だろう。
問題は、化粧品である。
一応、ファンデーション、口紅、マスカラくらいはアメリカに持ってきているはずだが、3月にDCに来て以来一度も使っていないので、果たして使い物になるかどうか怪しい。
恐る恐る段ボールの底から取り出した化粧品ポーチを開けてみると、ファンデーションのチューブの口は固まっている。口紅は表面が乾いている。マスカラは完璧に干からびている。
うーん、まんだむ。
あごをさすってみても何も解決しない。
アメリカ版マツキヨのようなCVSにひとっ走りして安いものを買ってくるという手はあるが、どうせ一回きりでまた何カ月も使わないだろうと思うと、数十ドルでももったいない気がする。
仕方なく、チューブの口をお湯で溶かしたり、口紅の表面をけずったりしてなんとか使えるようにした。マスカラはなくてもいいやと潔くあきらめる。
女公様は、元々いなかの子供のようにほっぺたが赤いので、チークはいらない。アイライナーやアイシャドウも、女公様が塗ると寝不足のパンダか歌舞伎役者のようになるので使わない。
とりあえずファンデーションと口紅さえ塗っとけば、大使館の御婦人方のチェックにも耐えられるだろう。
レセプションが始まり、たまたま近くにいたフランス人夫婦と会話をしていたら、窓から見える茶室への案内を頼まれた。
きたぜ、おい~、一番恐れていた誘導役じゃねぇかぃ。
幸い、茶室は見えていて、一本道で、緋毛氈が敷かれていたので、初めて来た女公様でも何食わぬ顔で迷わず案内することができた。
ま、案ずるより産むが易しってね。
結局、知り合いと話したり、写真撮影に応じたりしているうちにあっという間に2時間が経ち、ダイエットコークを2杯飲んだ以外は全く飲み食いできなかった。
ワシントンDCで一番美味しい和食は、日本大使館の料理だろうに・・・
社交の場に行くとつい仕事モードになってしまう悲しい性のために、女公様は今、永谷園のさけ茶漬けをすすりながら、ブログを書いているのである。



