夏らしい曲をご紹介します。
関西のフォークシーンで有力なアーティストだった谷村新司は、1971年に「アリス」を結成、

1972年にアリスのファーストアルバム『アリスⅠ』を発表しますが、

カヴァー曲だった「今はもうだれも」がヒットするまで、ヒット曲らしい曲にあまり恵まれていませんでした。

しかしその、アリスのヒット曲が出る前に、

谷村新司はすでに、ソロのアルバムを出しています。

まず、『アリスⅢ』と『アリスⅣ』の発表の間、1974年にリリースしたのは、

『蜩』です。

「ひぐらし」と読みます。

シングル曲は含まれていません。

収録曲の中の「蜩」、「冬木立」、「面影」は、

のちにリリース元の東芝EMIから発売される、谷村新司の各種ベスト盤によく収録されることになります。

 

表題曲「蜩」は、京都とおぼしき場所が舞台の作品です。

曲調も、演歌のような感じですが、

後年の、詩人にしてメロディメーカーとして才能を発揮するその萌芽が、

すでにこの曲に見えています。

谷村新司は、影のある女性の気持ちを歌わせると天下一でしたが、

この曲もそのような、悲しい女性の気持ちを、京都の風物に託していて、

それはひぐらしの鳴くような夏の夕方の情景と相まって、われわれの日本的な情緒に触れるようです。

しかし、この素晴らしい曲は、リアルタイムでシングルカットしなくてよかったのだと思います。
そうなると、のちにいろいろな、テンポの速いクールな曲を生み出すアリスはなかったのではないでしょうか。

「蜩」谷村新司作詞・作曲/篠原信彦編曲