秋葉高校は柏高校の視察を終えてから、急ピッチで新しい守備の形を作っていた。思いの外前田の一塁手はフィットし、動きも格段とよくなっていた。元々内野手だった小嶋と指原もさまになっていた。そして、なによりも一番の収穫となったのが板野のピッチングだった。小柄な為、球速は前田には及ばないが、抜群の制球力とスライダー、カーブ、シュートの三種類の変化球を投げる事が出来たのだ。
高橋「これはもう、センスとしか言いようがないよ!二週間も無い中で良くここまで仕上げられたね!」
板野は高橋の真っ直ぐな褒め言葉に、少し照れながらも謙虚がちに答える。
板野「そ、そうかな~?でも、時々ピッチャーもやってたし、その名残がまだ残ってたみたい。」
高橋「本当に凄いよ!はぁ~、誰かにも見習わせてやりたいよ。いたっ!」
背中に衝撃を感じ、素早く後ろを振り向くが、誰が投げたか見られなかった。しかし、高橋は確信した。間違いなく前田が投げて来たものだと。
松井「ともちんお疲れ様。なんとか明日の試合には間に合いそうだね!」
板野「そうですね。でも、さすがに疲れました。」
笑顔で答えた板野だったから、顔には少し疲労感が残っていた。
松井「そっか!明日は試合だし、今日はここまでにしようか!」
そう言うと各自片付けを始める。板野は前田と一緒にティーバッティング用のネットを片付けていた。
板野「ねえ、敦子。やっぱ明日は投げられそうにない?」
前田「少しなら投げられそうだけど、無理したらまた爪が剥がれるかもしれない。」
前田がそう言うと、板野の表情は暗くなった。そんな板野に前田が優しく声をかける。
前田「明日は信用している人が投げるから、私は心配してないよ。だってともちんなら大丈夫だもん。」
板野「敦子...。」
前田「まあ、譲るのは明日だけだけどね~。」
板野「どうかなー。明日次第では、ともがエースかもよ?」
この発言に前田が少しムキになろうとしたが、口を開く前に板野が冗談だと伝えた。
板野「なーんてね。…エースの敦子が戻ってくるまで守っとくから。」
前田「ちゃんと守ってよね。」
前田は照れながら板野の肩を叩く。つられて板野の顔にも笑顔が戻ってきた。少しばかりの不安は残っていたが、それよりも明日の試合が楽しみになっていた。