「あ~あ、逃げられちった~」
後ろから少しハスキーな声が響く。
振り返るとやっぱり杏子が居た。
眠たげな猫目に微かに微笑んだ口元。
見ようによっては人を小馬鹿にしているような表情。
茶髪のポニーテル。
前髪はポンパドールに。
短めのスカート。
「ん?あたちに見惚れてんのかい?」
「違うから」
僕、即答。
それを聞いて杏子は「やれやれ」という風に首を竦める。
「惺都は相変わらず乙女心が分って無いねえ。
そんなんだから、あの子に逃げられちうんだよ~」
「法元さんは女の子扱いした方が怒るよ」
かなり。
ていうか実際に体験済み。
「ああ、荷物運びの時の事かい。まあ、あの子はちと特殊だもんな~」
「特殊、ね・・・・・・・・」
「だから攻略に萌えるんだろぃ!?」
杏子は目を輝かせながら握り拳を作り鼻息荒く語る。
「違うから」
僕は冷めた目で杏子を一瞥してから人混みに視線を戻した。
法元さんの姿は人混みに掻き消されて一切見えない。
「あの子が気になるのかい?」
「・・・・・・別に」
後ろでフゥっと杏子が息を吐いた。
「素直になりなよ少年っ。君はあの子にLOVEなんだろう?」
僕の前に素早く回り込んだ杏子は悪戯っぽい笑みで僕を見つめる。
その視線に耐えれずに僕は目を逸らした。
気まずい沈黙の末、杏子が何かを呟く。
「ん?何か言った?」
「・・・・・・・・別に」
僕のモノマネをする杏子。
口調もポーズも全く一緒。
「で?クラスはどうだったんだいっ?」
口調だけ明るく、聞かれた。
ポーズはそのまま。
「法元さんと一緒だったよ」
「おやおやっ、おめでとう!これはチャンスですぜぃっ」
「まあ程々に頑張るよ」
「多分君の努力は全て空回りするだろうけど」
「嫌なこと言うなよっ!」
杏子は僕の背中をバシッと勢いよく叩いて微笑んだ。
そして、そのまま人混みに消えて行く。
「何が言いたかったんだ―――――?」
僕の呟きに答えてくれる人は誰もいなかった。
