鍔鳴りは武士の恥? | 千日の鍛、万日の練

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2019年7月より居合の道に入った男。
ろくに運動経験もないにわか初心者が、
無双直伝英信流を学びながらどう成長し居合の道を歩むのか。
誤った知識や戯言も含めて成長を振り返るための一日記。

入門した当初から、ず~~~~っと気になっていることがある。

先生が刀を扱うとき、「チャッ」と音がする。
納刀する際に柄を返すとき・・・血振りのとき・・・様々な場面で小気味のいい音がする。

そう、この音の正体はいわゆる『鍔鳴り』

先生だけではなく、他の門弟の方の刀も鍔鳴りのする方がいる。
私はこのことについてずっと気になっていた。

なぜなら、ネットで調べる限りでは鍔鳴りは武士の恥だとあるからだ。
鍔鳴りを良しとしない理由としてよく挙げられている事柄は以下のような感じだろうか。

  • 拵えに緩みがある証拠なので、目釘に負担がかかり折れて刀身がすっぽ抜けるような事故にもなりかねない
  • 鍔と茎が頻繁にぶつかり合うことで茎を痛めてしまう
  • 鍔鳴りだけではなく、鞘鳴りなど拵えから音が出ると敵に気配を察知される


こういった理由から、鍔鳴りのする刀を使うのは手入れの行き届いていない刀を使っていることになり、恥だという話だ。
なるほど納得の理由であり、これに対する反論、すなわち鍔鳴りを肯定するような内容は未だ見かけない。

先日の稽古で「介錯」をご指南いただいたが、首を斬りに行く際、左手は最後に添えるだけである。
この時ブレーキがかかるよう、しっかりと鍔鳴りがするように受け止めるのだと言われた。
鍔鳴りのしない刀なら仕方ないが、鍔鳴りするようになったらそれを意識するといいと。

もう、ずっと気になっていたのでついに私は思い切って先生に尋ねた。
「鍔鳴りがすることは悪いことではないのですか」

すると、「別に悪いことじゃないよ」と仰る。
さすがに「なぜ悪くないのですか、一般的には悪いこととされています」とまでは言えず、その理由までは聞けなかったが、おそらく分かりやすい理由などないのではないかと思う。
当流では鍔鳴りを悪いとしていない、単純にそれだけのことのように思う。

これはちょっと困った。

鍔鳴りを悪いとする理由があまりにも納得のいくものばかりだからだ。
最も理由として重視しなければならないのは、目釘に負担がかかって折れて刀身がすっぽ抜ける事故防止だと思う。

ただ、これについては「それが本当なら」という前提付きだ。

鍔鳴りどころか柄を持って上下に振ったらガタつきを感じるほどに拵えが緩んでいるなら確かにおおごとだ。
だが、鍔穴が削れて鍔だけが少し動くようになり、ちょっと鍔鳴りがする程度が本当にそんな大事故の原因になるのだろうか。

そして、鍔鳴りが武士の恥であるとはっきり伝えている古い文献などは、今のところ私が探す限りでは見つからない。
つまりソースが見つからない。

もし、もっともな理由を付けて鍔鳴り悪しと誰かが言い出したことが広まっただけで、実は鍔鳴りは特段気にする必要はないものだという可能性はないのだろうか。
武士の恥とまで、きっぱり言い切るほどの根拠が現代に伝わっているのだろうか。

そもそもこういった刀にまつわる作法などは曖昧なものも多いように見える。
下緒の扱い方一つにしても、時代に応じて変化している。
ネット上で論争を見る、刀を杖のように使う「杖太刀」なる所作の是非についても、双方の主張に確実性がない。
幕末頃の写真も持ち出して論争しているが、文献どころか写真が残っているような、刀の歴史から見れば最近ともいえるような時代の考察ですら決着がつかないものがあるわけだ。

「本邦刀剣考」という200年も昔の文献で、
「下緒を長くしておき、急の時に取り縄や馬の腹帯にもなるというようなことを言う者がいるが、これは疲れた時に刀を杖代わりにすると論じることと同じだ。下緒の本来の利用法でないと心得よ。」
などと書かれているようだ。
下緒のことについて調べている時に見つけたのだが、奇しくも杖太刀のことまで記されており、著者は杖太刀をけしからんと言っている。

しかしこれは、裏を返せば杖太刀を良しとしていた人々も一定数いたという事実を伝えるものだ。
つまり今に限らず江戸の時代においても作法論争があったということで、明確に何が良い悪いと断言し得るものではないように感じた。

同様に、鍔鳴りは武士の恥と言い切れる根拠があるならば知りたい。
ただここで明言したいのは、私は鍔鳴りを肯定したいわけではない。

ただ、本当のことが知りたいだけ。

私個人としては、少なくとも鍔と茎がぶつかり合うため茎を痛めることにつながるという内容に関しては否定しようがないほど納得できるので、鍔鳴りがするようになったら手入れしたいと思っている。
また、悪いとするはっきりとしたソースが見つかったとしても、今後先生に諫言することはしない。

なぜなら・・・

先生の刀は鍔鳴りするほうが、教わる側は業の細かい部分を理解しやすいからだ。

納刀のどのタイミングで鍔鳴りしているか、2段階で血振りする横血振りのどのタイミングで鍔鳴りしているか。
実際のところ、これがとても参考になっている。

鍔鳴りを肯定する場合、これが理由の一つになりえるだろうか(笑)
(あと、なんだかんだ鍔鳴りはなんか雰囲気があってちょっとかっこいい)

少なくとも、事故につながるという理由が眉唾なら、武士の恥とまで言うことはない気がする。
なにかにつけて、耳にしたことをそのまま鵜呑みにできず自分なりに理解したがる面倒くさい性格だが、この性格のおかげで退屈はしない(笑)

鍔鳴りについてどのように教わっているか、または教えているか。
色々な道場の方の話を聞いてみたいなぁと思う今日この頃。

型についても作法についても、100%の正解が不明だからこそ面白い。

日々、精進。