弾き歌いが終わり、シャトレ氏の反応を見ようとしたレオンはギョッとした。
シャトレ氏がひいらぎの顔を覗き込んでいる!
身体は勝手に動いた。
それは俺のものだ!
その強い感情にレオン自身驚いたが、今はひいらぎを守らなくては!
シャトレ氏は芸能会社の社長でなおかつ親日家だ。
ひいらぎが何者かわからないけれど、外国で一人頼りなさそうにしている姿はレオンの庇護欲をそそった。
弱みを見せまいと、彼女が気丈に振る舞えば振る舞うほど守ってあげたくなる。
レオンは、シャトレ氏の手をスマートにひいらぎから外させると氏は驚いたようにレオンを見た。
ひいらぎを守ろうとする姿を見て、初老の紳士はふっと口元を緩めた。
レオンのやつ、いつのまにあんな美人と婚約したんだ?
というツッコミは後回しにして、祝いがてら何か歌ってやろうじゃないか!
シャトレ氏は、分厚い歌集を開けると歌の物色を始めた。
レオンは、氏からひいらぎを引き剥がし胸をなでおろしていた。自然、顔には笑みが浮かび客たちとふざけてスキヤキソングまで歌った。
客も少なくなりそろそろ閉店だ。
彼がピアノの天蓋を下ろそうと立ち上がると、狙いすましたようにエミリーが寄ってきた。
本当、うっとおしい!
初めは遠慮がちだったエミリーだが、今では大胆に身体をすり寄せてくるようになり、レオンは嫌悪感を覚えていた。
これもセクハラだよなぁ。
いい加減にしてくれよ、もう!
今夜はひいらぎがいるんだ。みっともないところは見られたくない!
レオンは肩越しにひいらぎを振り返ると、彼女とパチンと目が合った。
「ひいらぎ、どうした?」
エミリーをかわしてひいらぎに声をかけると、なんとピアノが弾きたいと言うではないか!
「君、弾けるの?」
「少しだけ…」
「へえ、そいつは初耳」
彼女、ピアノを弾くという隠し球を持っていたんだな。
確かに音楽家の雰囲気はある。
初めて会った時に感じた何かは同じ穴のムジナだったからだろうか?
「レオン、五線譜と鉛筆を貸してくださらないかしら?」
「……。はい、どうぞ」
「ありがとう!」
レオンは彼女のやることから目が離せなくなった。
まるで水を得た魚のように楽しそうにピアノの鍵盤に触れていた。
作曲している?
いつだったか、どこだったか、俺は君に恋をした♬
レオンの脳内に聴き覚えのあるフレーズがリフレインした。
空の青と同じネモフィラの水色の花の絨毯の上、追いかけっこをしているふたりの子ども。
一人は陽だまり色の髪。
もう一人は烏の羽の色の髪。
明暗を分けるような色の組み合わせは、まるで光と影。
金色の髪の子どもが振り向いた。
空の色のような瞳!
ひいらぎ?
レオンは、まばたきを繰り返した。
14話につづく
