「お待たせ、シルヴィア、遅くなってごめん」
「いいえ、私も数分前に来たところですわ」
「そう言ってもらえると気が楽になるよ。ちょっと充電が足らなくて車内でも追っかけ充電してたから…」


そう言うと、ヒューは鞄の中からアイパッドを取り出した。
「それは?」
「仕事で使っている。動画と検索用。それよりも休日なのに悪いね」
「ふふ、なんだかデートみたいですね」
「そうだね。じゃあ普通のデートみたいに何か注文しようか!」



11月のカフェ。
ドリンクが届くまで他愛もないおしゃべりを楽しみながら、時々風が唸り声を上げるのでシルヴィアは街路樹に目を移した。


樹木から別れを告げた赤や黄色の葉が、地面近くに沸き起こった木枯らしの渦に捕まりクルクルと回転するのを眺めていると、ヒューが「風の小犬がダンスをしているな」と呟いたので、彼女はリアクションに窮した。


先生てば、また詩的な表現ごっこをしている。
ここは、「あ、本当ですね。小犬の毛並みはショコラ色かしら?それともセピア色?」など反応した方が良いのかしら。でも、恥ずかしいので黙っておくことにした。


「お待たせしました」


ヒューはブラックコーヒー、シルヴィアはレモンティーに口をつけながらクリスマスコンサートの打ち合わせが始まった。



「これなんだが、どう思う?」
「これは、当日の姫ドレス?」
「レンタルだけどね。シルヴィアの助言通りクラシカルなカタチにしたよ。いま、色を悩んでいる」
「色…」
「黄色が第一候補なんだ」
「華やかですね、黄色。でも…」



シルヴィアは言いにくそうに言葉を止めた。
「なに?言って!」
「私が子どもの頃ピアノの発表会で黄色のドレスを着たの。でも、スポットライトが黄色っぽいのでドレスの色がぼやけてしまってあまり良い印象がなくて…」
「そうか、じゃあ黄色はやめておくよ。貴重な意見をありがとう」
「いえ、お役に立てたなら良かったですわ」
「じゃあ何色にしようかな…」
「背景とか関係してくると思いますけれど、姫役の髪の色なども考慮された方が…」
「ああ、金髪に青い目、君と同じだ。そうだ、シルヴィアを基本に考えたらしっくりくるじゃないか」


ヒューは、手のひらを拳でポンと叩いた。
「我ながら名案だ!いま、モデルは目の前にいる」
ヒューの視線はシルヴィアとアイパッドの間を彷徨い、そうだ、赤にしよう!
首飾りとイヤリングはパール系にしよう!
赤ならモスグリーンの薔薇と相性が良い。

と一人で完結してしまったのでシルヴィアは言いそびれしまった。


舞台では白が一番綺麗に見える…と。


でも、先生のコンサートだし赤で納得しているならそれはそれで良いだろうと喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。


私が姫役ならドレスは白。
首飾りは母から譲り受けたサファイアの透明な青。
髪にはあのモスグリーンの薔薇。


別に姫役がやりたいわけでは無いけれど、コーディネートを考えるのは楽しい。


クラシカルなドレスならコートはあれで、手袋はファー付きの革のにしよう。
普段が絵の具にまみれて仕事しているのでクリスマスコンサートは密かにドレスアップを楽しんじゃえ!


◇


時計のアラームが遠くから聞こえた。
まだ、眠い、もう少しだけ寝たい。でも…何か忘れているような感覚。


あーーーー!


とシルヴィアはガバリと起き上がった。
目覚める前に何か夢を見ていた。
誰かに向かってクリスマスの…て叫んだけれどその先が思い出せない。


時計を見ると今から支度してギリギリ。
今日は先生のクリスマスコンサート当日だ。
コーデを予め考えておいて良かった。
パンプスは銀色のにしよう。
それさえ出せば考えたコーデでイケる。


開き直ってしまえばシルヴィアの行動は早い。
まるで訓練を受けたかのように身体はテキパキと動いた。


ホールの係員に真紅の薔薇のカードを見せるとヒューの楽屋に案内された。
呼吸を整えて楽屋の扉を開けるとすごいイケメンがいた。


え?部屋を間違えた?
シルヴィアはドレスアップしたヒューの姿に毒気を抜かれ、騙されたように姫役を務めあげお礼にとヒューに飲みに誘われた。


誘われた先はヒューの自宅で、彼の自宅はいつもレッスンに通っているサロンの隠し扉の中にあった。


そして、ヒューから告白されそのまま和室の炬燵で宅飲みをする事になった。


「ねえ、せんせ、ヒューはいつ私がオスカルだと気がついたの?」
「ナンシーの店で出逢った時さ」
「私はわからなかった」
「俺は、君に片想いしていた時期が長かったからだと分析している」
「それだけ?」
「知りたい?」
「ええ、とても」
「じゃあ、ここにキスしてくれたら…」

ヒューは自分の唇を指し示した。


15話につづく