事務所の鍵をかけた。
扉上の表札には「宝生人事管理研究所 社会保険労務士 宝生琢磨」とある。鍵を閉めて外出しても何の支障もない。
なぜなら飛び込みも含めて来客は皆無だからだ。顧客企業には連絡を受けてから出向くのが常だった。
外出中の電話は秘書サービス会社と契約してうまくやっている。
琢磨の事務所あての電話は美声の女性が代わりに受けて、琢磨の携帯電話に留守録してくれるのである。
それを聞いてからワンクッション置いて連絡する。
業務関係の連絡はすべてこの方法をとっていた。
最初から直接、携帯電話に転送するようにすれば経費もかからないわけだが、それではいつどこで携帯電話が鳴るかわからない。
琢磨は仕事の合間、時間ができるとふらりと美術館に立ち寄ることが多い。
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そのため携帯電話をいつもバイブレーションコールで設定しているくらいだ。