タタタン、タン、タタタタ。
・・・「まもなく、高崎、高崎。・・・。」
駅構内のポイントを過ぎるころ、高崎到着のアナウンスが流れた。
ひと昔前は車掌がターミナル駅到着前に、乗り換え案内とそれぞれの路線の発車時刻をアナウンスしていたと思うが、ワンマン運転となると運転士1人にそこまで負担をかけることは出来ないのだろう。
列車は高崎駅の4番線に到着した。
同じホーム向かいの2番線には高崎始発、伊勢崎行きの両毛線の電車が停まっている。
同じホームの東京寄りにある切り欠けホームの3番線には、八高線の電気式気動車が停まっている。
○○線、八高線沿線から県庁所在地の前橋市までの移動は、ここ高崎駅では2、3、4番線を使って階段やエスカレーターを使うことなく同一ホーム上で乗り換えられるようになっている。
上越線や吾妻線の乗客は、新前橋駅で同じように同一ホーム上で前橋駅方面へ乗り換えられるようになっているそうだ。
高崎駅の5、6番線は、高崎線と両毛、上越、吾妻線を直通する列車が発着している。
2番線は先にも述べたが、高崎始発の両毛線の電車が発着している。
県内の人口は減少しているものの、自動車産業の工場群が近い両毛線沿線は人口数がほぼ横ばいで、高崎の市街地〜前橋市〜伊勢崎市〜太田市付近は高齢人口の自然減を他県から流入する若者の人口増が補うという、全国的にも珍しい人口動態が続いている。
両毛線沿線の工場が近隣の渋滞対策として、電車通勤を推奨していることから両毛線の利用者もほぼ横ばいとなっている。
高崎線の籠原以北の区間が両毛線と直通運転を行い、上越、吾妻、○○の各線と両毛線との乗り換えにこれだけ便宜が図られているというのは、それだけ県内の他の地域や埼玉県北部から伊勢崎駅との間に底堅い需要があるということなのだ。
そのため、高崎〜伊勢崎間は朝夕のラッシュ時間帯で上り下りとも1時間あたり5本設定され(新前橋乗り換えを含む)、昼間の時間帯も1時間に3本ずつとなっている。
新前橋〜伊勢崎間はラッシュ時間帯、さらに区間便が設定されている。
終日、列車は全てワンマン運転となっているが、今のところ大きなトラブルは起きていない。
むしろ、ワンマン化したからこそ地方においてこれだけの本数を設定することが出来ているのだろう。
話は戻るが、高崎駅の7、8番線は現在、朝夕に設定されている東京方面へ向かう10両編成の快速列車、上野行きの通勤特急、上野から吾妻線へ向かう特急列車しか発着していない。
本数にすれば全部で1日あたり20本にも満たない。
しかし、新幹線がトラブルで運休となった時は、埼玉の籠原止まりの列車が10両編成のまま臨時で高崎まで運行される。
いざという時のために7、8番線もしっかり整備されているようだ。
軽「上り電車が先に来たし、高崎の駅ビルに行ってみようかと思ったんだけど、かなり人が多いな。改札の外側は東京を彷彿とさせる人の流れだ。」
△△駅で帰りの電車を待っていたら、高崎方面が先に来たため、気が変わって駅ビルへ買い物に来た軽史。
軽「△△駅の次の駅からお客さんがどんどん乗ってくるし、新しそうな駅も途中あったし、高崎の一つ手前の駅から立ち客も多かったし。ちょっとびっくりだな。」
人混みをかき分けて駅ビルの入り口にたどり着いた軽史。
エスカレーター横にある駅ビルのテナント一覧を見ると、生鮮食品を扱うスーパー、ドラッグストア、コーヒーチェーン、アパレルショップ・・・。
駅ビルに入っていそうな店舗名の中に、意外な店名を見つけた。
軽「あの店って、大手ホームセンターの傘下だったよな。まさか駅ビルの中にホームセンターと同じものが売っているのか?」
さっそくその店のフロアへ向かう軽史。
すると、そこにはロードサイドの店舗よりも小さな袋に詰められた肥料や土、軽石、マンションのベランダにちょうど良さそうな大きさの植木鉢など、全体の数は少ないながらもホームセンターと同じ商品がキレイに陳列され、購買欲をそそるポップアップとともに売られていた。
沿線のホームセンターの統廃合が進み、ますます車がなければ買い物しづらい状況が進む中でも、電車を利用出来る人は駅ビルまで来れば必要なものを手に入れられるのだ。
軽「定期券を購入して電車通勤をしていれば、途中駅で降りても追加の運賃は発生しない。沿線の高齢者は自治体からの補助で安く電車に乗ってこの駅ビルまで来られる。沿線のマンション開発もまだ続いてるから、住民の生活スタイルをしっかり調査して、それに合わせて商売をすれば結構良い売り上げになるのかもしれない。」
実際、高崎駅では自宅の最寄り駅に買い物できる場所が小さなコンビニしかない通勤客が、乗り換える列車を1本遅らせて、その間に定期券を使って改札外へ出て、駅ビルや駅近くの店舗で買い物してから帰宅するという流れが出来ている。
たしかに、自宅の近くの買い物スポットが減ってしまうのは不便であろう。
しかし、通勤ルート上のターミナル駅の駅ビルで買い物を済ませたり、自宅近くのコンビニや小型スーパーを最大限活用することで、ロードサイドの店舗で買いだめした商品を自家用車に積み込んでいた時代と遜色ない生活を送ることが出来るのだ。
軽「次の電車まで40分か。せっかくだけど、今日はM印でお菓子を買うだけにしよう。次に来た時は、駅ビル向かいのショッピングモールや百貨店、反対側の出口にある家電量販店にも行ってみよう。」
M印の店舗のレジには「Suicaのお支払いでポイント3倍!」とシールが貼られていた。
他の地域と比較すれば恵まれている高崎駅周辺であっても、縮みゆく売り上げの中で自前の決済インフラを何としても守り抜かなければいけない、というJRの強い意志を感じる。
キャッシュレス決済の利用が大幅に増えた時代には、利用金額の30%、20%、10%還元という広告が多く見られた。
それに対して、近年は適正価格の買い物を、適正な決済手段、適正な還元率で楽しむという価値観が浸透している。
誰が見ても無理な設定条件は長続きしない。
本当の意味で社会のインフラを長続きさせていくには、適正な基準を受け入れていくしかない、という考えが受け入れられたことで、この国は一段と成熟した。
アパートの最寄り駅に降り立った軽史は、自分のSuicaを簡易型改札機にタッチする。
オートチャージされた残額が1,492円と表示された。
駅ビルの買い物でSuicaの残額は0円となっていたので、今日一日の出費が高いと感じるかどうかは人それぞれだと思う。
ただ、この時代の物価に慣れている軽史は特段何も感じない。
この値段が当たり前なのだ。
ひさびさに街で買い物し、M印のロゴが入った袋を前後に揺らしながら、気分良く緩やかな上り坂を歩く軽史であった。
※このエピソードはこれで終わりです。
※Suicaは東日本旅客鉄道株式会社の登録商標です。