タタン、タタン。

 

ひと昔前に東京の都心部を走っていた車両が、田畑と山に囲まれた線路を軽快に走って行く。

 

・・・「次は、△△、△△です。お出口は左側です。」

 

進行方向右側の窓からは、大きな工場から白い煙がもくもくと立ち上っているのが見える。

 

列車は1番線に到着し、軽史はドア横の「開」ボタンを押してドアを開け降車した。

 

すぐに電車の側面上部にあるスピーカーから、都内で聞き慣れた発車メロディが流れ出す。

 

・・・「ドアが閉まります。駆け込み乗車はお止め下さい。」

 

ドアが閉まり、電車が発車していく。

 

軽史の目に車体側面に設置された小さなカメラが目に入ったが、すぐSuicaの入った上着のポケットに視線は移った。

 

この△△駅は1番線(旧上り線)と3番線(旧下り線)があり、跨線橋でつながっている。

 

しかし、今3番線を使う列車は朝夕に設定されている△△駅折り返しの列車のみで、跨線橋の入り口にはカラーコーンと案内の看板が置かれていた。

 

3番線には福島行きの貨物列車が出発待ちをしており、先頭の機関車が発する音が駅の構内に響いている。

 

1番線は電車を降りると改札を抜けるまで段差が一つもない。

 

上り列車、下り列車とも1番線発着とすることで駅のバリアフリーも大幅に向上していることになるのだろう。

 

東京と変わらない通常の改札機にSuicaをタッチし改札を抜けると、左手に郵便局の窓口が目に入った。

 

郵便と金融の窓口が一つずつあり、郵便の窓口では東京方面への紙の切符を買えるらしい。

 

切符の券売機があったであろう場所には、大手コンビニのATMが設置されている。

 

Suicaに現金でチャージする時は、設置されたATMを使って欲しいということなのだろう。

 

コンビニのATMでSuicaに現金チャージができるサービスが始まって10年以上経つが、公共交通機関が自前の券売機の代わりとしており、郵便局でさえ窓口の隣に自社のATMではなく、他社(コンビニ)の機械を設置している。

 

マイナンバーカードを読み込ませて顔認証を行えば、行政の様々なサービスも利用することが出来るという。

 

それだけコンビニのATMの存在が、社会に欠かせないインフラとなりつつある。

 

駅舎から外に出ると、国道18号線の大きな陸橋が目の前に横たわっている。

 

さながら高速道路のICのようだ。

 

国道18号線の下をくぐった先に、軽史の今日の目的地である△△市役所がある。

 

以前はホームセンターがあったそうだが、近隣の店舗と統合し、移転してしまった。

 

△△市はその跡地に、市民向けサービスを行う課を集約した新しい庁舎を建設し、市役所の一部機能を移転させた。

 

事業者向けのサービスを担当する課は、3km離れた高校近くにある既存庁舎を引き続き使用している。

 

新しい庁舎の市民課で、転入届を記入する軽史。

 

軽「転出届はオンラインで済ませられたのに、なんで転入届はいまだにアナログなやり方なんだろう。」

 

心の中でぶつぶつ独り言をつぶやきながら記入を済ませ、整理券発行機のボタンを押す。

 

市民課のベンチに腰掛けようとしたら、すぐ軽史の番号が呼ばれた。

 

転入届とマイナンバーカードを窓口の担当者に渡し、カードの暗証番号とパスワードを窓口のパソコンに入力。

 

10分ほどで変更欄に新しい住所が記載されたマイナンバーカードを受け取り、転入手続きは終了した。

 

3年前からマイナンバーカードと運転免許証の一体化が始まり、その時に軽史も一体化の手続きを済ませてあったことから、警察署などに出向く必要はない。

 

軽「親の話では、住民票の転出、転入、免許証の住所変更の手続きだけで、最低でも半日かかってたらしい。それに比べれば、市役所に着いて15分くらいで全ての手続きが完了するのは、行政サービス自体がものすごい進歩を遂げていることになるんだろうけどね。」

 

帰りの電車まであと25分くらいある。

 

軽史は市役所の駐車場の隣にある、大きなコンビニで時間をつぶすことにした。

 

もともと普通のコンビニがあったそうだが、建て替えられてコンビニと小型スーパーのちょうど中間くらいの大きさになっている。

営業時間は朝5時から24時までで、24時間営業ではない。

 

しかし、△△駅の始発前に営業を開始し、終電後に閉店することで、このあたりの需要はカバーできるのだろう。

品揃えは生鮮食品を含め、普段の買い物で利用する分には申し分ない。

 

セルフレジが2台、有人レジが1台設置されている。

 

今の時間は高齢の買い物客が多いが、時間帯によっては近所の建てられて数年のマンションに住む人達が多く訪れるのだろうか。

 

 

※Suicaは東日本旅客鉄道株式会社の登録商標です。