いつ以来だろう…?

おふくろの字を見たのは。

もう、何年も見て無かったけど、字に力を感じ無かったのは気のせいかな。


手紙の内容は、電話で話したことと殆ど変わらなかった。

手紙の最後に

『苦労ばかりして来たけど、きっと良いこと有るよ。

頑張ってね。暇を見て母さんの元気なうちに遊びに来て下さい。』

と綴ってあったけど、


俺は、父さんや母さん、兄貴達に比べたら一番苦労してないよ。

ただ、自分の好き勝手に生きてきた分のしわ寄せがきただけのこと。

それに、おふくろが思うほど苦労してるとは思ってないしね。



『母さん…

離婚する前は、元奥さんを褒めまくり、自慢しては散々俺を悪者にしてたんだから、

最後まで悪者扱いをしてくれた方が俺は良かったのに…


全部、俺の責任だから

全部、俺が悪いから

それで良かったのに…


今更、優しくしなくていいよ。


だって、母さん達には自慢の嫁さんだったんだから、元奥さんを悪く言うなよ。

全部俺の責任でいいじゃん。

話しの中で、そんなことを言ったら


『あんたは、どうして黙ってたの?』

と、おふくろに言われ

『おまえらしいけど、子供達は変わらずに相談にのってやれよ』

と、兄貴に言われた。


なんのことやら…、と思ったら、

実は、

離婚してから我が子達は、それぞれ俺の田舎に遊びに行ってたらしい。

長男が就職する前に一度行ったのは聞いてたけど、それ以外は全然知らなかったな。

その時に…

子供達は、俺と元奥さんのことに対して、自分なりの想いや意見を実家で語ったらしい。


今までは、元奥さんの言葉が全てだったけど、

どうやら、孫の言葉が全てになってしまったようだよ。


『お前の悪口を言ってたらな…、

「伯父さん!それは違うよ!」

とか

「確かにお父さんは悪いけど、お父さんだけが悪いとは思ってないよ」

とか

「なんやかんや言っても、お母さんとお父さんから生まれて良かったし、子供ができたら、お父さんのような子育てを真似たい」

などと、しっかりと自分の意見を俺達や母さんに言ってたぞ。

本当にいい子達に育てたと言うか、立派な社会人になったな。』


などと言ってくれたけど…

実際問題、俺一人で育てた訳じゃない。


育てたと言う気も無いんだ。


ただ…

警察官時代に少年犯罪に真っ正直から向き合ってきた経験と

PTA時代に児童相談所と喧嘩したり、いろんな親子と真っ正直から最後まで関わった経験と

管理職での人育てと

亡き親父の育て方をマネしただけのことだよ。


そして、そこに元奥さんが居たから、俺はおいしいところだけ頂いてただけだよ。


『お父さんは普通のお父さんじゃないよ』

って、いつも言われてたけど、俺にとっては褒め言葉のようなものだしね。


そんなことを話したよ。


本当は…

警察官を辞めて勘当された時の俺の想いを言いたかったけど、


言えなかった。


きっと、言ってはいけないことなんだろうな…


だから今日

パンドラの箱にしまったよ。



俺に、いい人が見つかるかどうかなんて分からないけど…



俺はこれからも変わらないから。