普通科の進学コースにいた俺だけど、

卒業後の進路は警察官。


本当は、中学を出たら大工さんになりたかったけど

『これからは、どこでもいいから高校ぐらいは出ておけ』

と、大工の棟梁に言われて高校受験した俺。

だから、高校を卒業したら大工さんになるはずだったのに…

警察官になる気は全く無かった俺だったのに…



高校1年の時に駐在さんが家に遊びに来ていた時

『高3まで待つから、警察官の試験を受けて見ろ』

と言われた時は、冗談だと思ってたけど…

駐在さんは本気だった。


願書を書き、提出する際、

第1志望と第2志望が有り、
俺は第1志望の蘭に『北海道』と書いただけで

第2志望の蘭を空白にしてた。


ところが…


地元を受けても

柔剣道で有段者か身内に警察官がいるとか、

よほどのコネが無い限り難しいと言われたよ。

勿論、30年も前の話しだから、今は分からない。

そんな時に、

担任の先生に

『君は東京では暮らせそうもないだろうし、千葉に行ったらすぐに機動隊に入ることになりかねないから

第2希望は埼玉が言いかもしれない』

と言われたよ。


埼玉…!?


井の中の蛙の俺は、それまで埼玉が何処に有るかも知らず日本地図で調べたよ。
地図を見ていて

未知なる土地に不安と希望を持った俺がいたが

大工さんを諦められなかった。

迷いながらの採用試験。


運良く、第2志望に合格したが

合格する前は

名古屋に居る兄貴や、近所の人達や、両親の実家・親戚と、

いろんなところから

『何したんだ!?お巡りさんが、お前のいろんなことを聞いて来たぞ』

と、言うような電話が多かったよ。

二番目の兄貴なんかは、直接兄貴に聞いたのでは無く、

兄貴の友達に、兄貴はどんな人か?みたいなことを聞いてたらしいから

周りもそうだったんだと思う。

俺が小学生から車を運転してたり、酒を飲んだりしてたことも

高校の時に、一番上の兄貴や兄貴の友達と暴走族狩りをしてたことも

田舎の人達は誰も言わなかったようだ。

まっ!俺の周りも俺とやってたことは、たいした変わらないから、言うとは思わないけどね。


ただね…

車の免許を取る時は大変だったな。

俺が警察官になると言うだけで、実地試験が厳しくて…

なんで落ちたか分からなかったよ。

三度目の正直で、合格したけど、

その時に

『本来なら、1回目で合格なんだけど、警察官になるんだから一番厳しくさせてもらったよ』

と、自動車学校の校長に言われた時は

警察官を恨んだもんだよ。


親孝行以外は、遣るべきことは遣ってきた俺。

地元を離れることも

家族と離れることも

友達とさよならすることも

なんら抵抗は無かった。


旅立つ日は家族以外知らないはずだったのに


駅に着いたら…

高校仲間がみんな来てくれていた。


なんだか嬉しかった。




汽車に乗り出した時…

女子のひとりが

『なんか有ったら我慢しないで帰ってきなよ。

絶対に死なないでね』

と、泣きながら言いだすものだから

それにつられて、他のみんなも泣き出した。


別に俺は戦争に行く訳じゃないけど…


ある意味、

戦いに行くことは間違い無かったかもしれない。


汽車が出発しても、駅のホームギリギリまで走りだして

手をふってくれた仲間。



そして…

次の駅では、

ホームで差し入れをしてくれた仲間。


極め付けは、

『埼玉の治安を悪くするなよ。頑張れ!!』

の横断幕だったよ。



なんて、いい奴らだ。


この時ほど…


『ここに居たい!』

と思ったことは無かったな。


本当に、旅立ちの朝は

みんなに

ありがとうの日だったよ。


第4章 ~警察学校編