2001年2月











山形県に来た。







何年ぶりだよって感じの新幹線に乗って、


越後湯沢ってとこから急に雪景色になったのには感動した。







電車を乗り継ぎ、余目(あまるめ)ってとこに辿り着いた。




当然ながら、あたりは真っ白。




この時は、その数時間後に頭ん中まで真っ白になるとは思いもしなかった。








ここは、高校生の合宿免許は受け付けていないようで、


会う人会う人みんな年の近い大学生ばかりだった。







その中でも、一人、とびきり可愛いコがいたが、


俺にはあの人がいるので、揺らがないぞと思った。






周りを見ると、みんなどこかフワフワしていて、

なんか、男も女もみんな異性と仲良くなりたいって雰囲気があった。



これはきっと、大学の入学時とかにある雰囲気なんだろう。



俺は、ライフセービングをやるために東海大に行ったので、

学部はないがしろにしていて、

そんな雰囲気なんか寄せ付けない感じでキャンパスライフを送っているので、


このフワフワした雰囲気はとても新鮮だった。





でも、ここでそういう空気に流されてのんびりしていたら、


今頃オーストラリアに行ってるみんなにどんどん差をつけられてしまうと思ったので、


何が何でもトレーニングして、もし時間が余ったらみんなと仲良くなろーかなと思った。






初日、いきなり運転することになった。



マニュアル車。





足元にあるレバーみたいなのを離すとエンストってやつになるのを初めて知った。


エンストは酔う。




いきなりエンストしまくったので、吐きそうになった。







こ、これは・・・つらい・・・。






ライフは好きでやってるから、


智春さんに人格がひん曲がりそうなくらい罵声を浴びても心は折れなかったが、


免許は好きでやってるわけじゃないから、めちゃくちゃつらい。









「もうダメかもしれません・・・」






って書いて、七瀬先輩に励ましてもらおうとしたら、





「何弱気なこと言ってんだい!!!」




って一喝された。




き、気持ちいい・・・。







気を取り直して、必死に運転をする。


学科もとても新鮮。


学校の授業よりは面白い。






そして教習後から俺の勝負は始まる。




ホテルのプールで泳ぐのだ。








が、







「当ホテルにプールはございません。」







だ、だまされたっ!!!





プールとウェイトトレーニングができるって聞いたからここにしたのに・・・。








「ですが、近くに施設があるので、送迎いたします」







そうきたかー。




というわけで、泊まるホテルから車で10分ほどのところに連日行くことにした。






一通りのトレーニングを終えて、ホテルに戻ると、


ロビーで合宿同期のみんながワイワイ話している。




その中に、俺のルームメイトもいたので、


その彼つながりで俺も輪の中に入ることができた。




でも、俺のスタンスはみんなとちょっと違っていた。




せっかく遠い異国の地みたいなとこに一人で来たのだから、


ひとつのグループに留まらないで、


色んなグループと交流を持とうと思ったのだ。





これは俺の今までには無かったことで、


この旅をきっかけに、今の大学生活や、これからの人生においての、


人付き合いのいいきっかけにしたいと思っていたのだった。




そんな複数のグループ付き合いの中には、

あのとびきりかわいいコもいた。



当然会話をする。




「なんか、たいへんだょ」




「おう。でもやるしかねーな!」




「わだこーはえらいょ。ここでも鍛えてるんだからね」




「お、おう。でもこれじゃ足りないよ」





このコはみんなからルンルンと呼ばれていて、


この期のアイドル的存在になっていた。


このコと目が合うと、妙にドキドキする。




いかんいかん。








朝、気を取り直して、走りこみに出かける。



・・・が、積雪に足をとられ、思うように走れない。



こっちの人はどうやって走ってるんだろう・・・?




走れない分は施設のバイクをひたすら漕いだ。







七瀬先輩とは、なんだかんだで毎日メールしていた。


でも、毎回返事が来るだけで、向こうからは来なかった。





ああ、早く会いたいなぁ。









辛かった合宿も、1週間が過ぎた。



世の中の大人がほとんど持っている自動車免許。



俺だけ取れないということは無く、



センスのかけらのない俺でもようやく形になってきた。






仮免許のテストの日が来た。



みんな緊張している。



俺も緊張した。







ギアの変速、右折、左折、車庫入れ、縦列、坂道・・・






全てソツなくできた。




オートマのルンルンもなんとか無事に仮免が取れたみたいだ。







その夜は、みんなで飲み会をした。



ハイテンションではしゃぎまくる女の子がいて、

男はみんなその子のことが気に入っていた。



でも、俺は騙されなかった。



まぁ、心に先輩がいたからで、心がフリーだったらわからなかったけど。



すると、その様子を見ていたルンルンが話しかけてきた。





「なんか、あんなにはしゃいで、フリーだ寂しいだ言ってるのって引くけどさ、

男はみんなあーゆーのに弱いんだよね。

でも、アダコーみたいに、あれにやられない男もいるんだね」






・・・なんか、いい感じだ・・・。






ずっと気づかなかったが、脈があるってこーゆーことなのか??



明らかに、七瀬先輩との会話ではありえないセリフだ。







その日、俺はルンルンとメールアドレスを交換した。







解散後、さっそくメールをした。



すぐ、「また明日!おやすみー」って返ってきた。



七瀬さんと違って返信も早い。






しかし、そのやり取りの後、またメール音が鳴った。






あれ?またるんる・・・・・・・じゃないっ!!!








紫のイルミネーション、平井堅の着メロ!!!












「どーだ?そろそろ仮免くらい取れたか??頑張れよ!

私は明日、面接にいってきます!」











な・・・な・・・ななせせんぱい!!!






向こうから来るなんて・・・!!!





ルンルンでドキドキした自分が恥ずかしくなった。







それからの俺は会話はルンルンとするが、


メールは七瀬先輩とばかりした。


七瀬先輩のことを考えると、トレーニングにも身が入る。



トレーニングだけではない。



飲み会がある時は必死で盛り上げ役に徹した。



七瀬先輩をとりこにした西浜の先輩の得意技、

「飲み会での盛り上げ役」をマスターしたかったからだ。




すると、




「なんか、アダコーいいょ。」



「盛り上げられる人ってかっこいいよね」





何人かの男女にそう言ってもらえた。


なんか、自分が変わりつつある気がして嬉しかった。





トレーニングの成果か、体重も82キロまで増えた。


この合宿に来ている他のみんなとは、カラダつきが違っていた。


やっと一般人レベルを卒業したかな・・・。





車の運転もだいぶ慣れた。


仮免後の路上デビューがアイスバーンという、


東北ならではのコンディションだったので、


ここで運転出来たら、どこに行っても大丈夫な気がした。






17日間に及ぶ合宿も終わりが近づいてきた。


オートマ組は2日早く卒業する。




オートマ組の卒業。

つまり、ルンルンとも別れの時だ。






卒業検定の前夜、


俺は、俺なりに考えた精いっぱいのアドバイスをメールに書いた。





そしてルンルンは見事に一発合格。


卒業となった。






別れ際、ルンルンは綺麗な目をうるませていた。




そして翌日、メールが来た。







「明日は卒検だね。昨日は飛行機乗ってから突然寂しくなって涙出たよ。

メール保護らせていただきました。ありがと。アダコーも頑張ってね。」






保護・・・。






俺のメールを保護してくれるなんて・・・。




なんて、かわいいんだ・・・。











・・・はっ!



いかんいかん。



またルンルンに心を持ってかれそうになった。




俺の心は一つだ。



ルンルンではない・・・。






でも・・・





とりあえず、俺も保護しとこうかな・・・。






その日以来、ルンルンにも指定着メロを使うようになった。






福山雅治の「Squall」という曲だ。




俺はどうしようもない人間だ。



なんか、サチとレイナちゃんの時に似てるな・・・。








二刀流になった俺は、宮本武蔵の如く、卒検という名の巌流島に挑んだ。






見事文句なしの合格!!!




合宿の卒業が決まった。






よぉーし!これで七瀬先輩に会える!!!



お土産は何にしようかな・・・。







帰国の日、七瀬さんへのお土産と、岡村さんへのお土産を買い、


俺は新幹線に乗った。



すると、東海大学前に帰国した翌々日、七瀬先輩が向こうから遊びに来てくれた。



たわいもない話は6時間にも及び、



「下でまともに話すのはアダコーくらい。」



とか嬉しいことも色々言ってくれた。







そして夜中に先輩が帰って、携帯を開くと、ルンルンからメールが。





神様は俺をどこまでもてあそぶんだ。






東海大学前に帰ってから、バイトも再開させた。


近所のパチンコ屋だ。





実は車の合宿に行く前に、俺のパチンコ屋にとても可愛い同い年のコが入った。



聖子といって、これまたとても可愛いコだった。





俺が1カ月ぶりにパチンコ屋に復帰すると、


新人だったはずの聖子は、ありえないほど頼もしくなっていた。



でも、話す機会がない・・・。


話せたら、どんなに楽しいだろうか・・・。








1こ上の七瀬さん、タメの聖子、1こ下のルンルン。







俺はほんとどうしようもない。





どうしようもない俺は、どうしようもないまま誕生日を迎えた。




さようなら10代。






20代こそ、モテモテの人生を歩んでやる。



ってか、早く卒業したい・・・。






気温もだいぶ上がってきて、


南の地で真っ黒に日焼けした仲間たちもぞくぞくと帰ってきて、


俺にとって3年目の、勝負の春の足音が聞こえてきた。