2000年9月
打ち上げが終わり、次の日を迎えると、
そこには夏の西浜は無くなっていた。
あ、サーファーが海に入ってる!!
もういいのか。
よく見ると、そこらじゅうに、昼間のサーフィンを楽しむ人々。
あったはずの海の家も、
昨日の内に夜逃げでもしたんじゃないかってくらいすっきりしていた。
それにしても、疲れた。
41日連続ガード、ひと夏53日ガードの代償は少なからずあり、
全身のダルさと、燃え尽き症候群のような無気力感に襲われた。
しばらく、何も考えずに休もう。
貯まったガード代を使って、中古のビデオデッキを買った。
2年ぶりに、自分の住んでるとこにテレビとビデオが揃った。
さっそく、ツタヤでプライベートライアンを借りてみたりもした。
中古のTVゲームも買った。
半日くらい、ずーっとそれをやってる日もあった。
中学時代のような生活。
でも、どこか空虚だ。
はぁ。
彼女欲しいな・・・。
「彼女」について考えると、必ずあの人の姿が浮かぶ。
そういえば、もうすぐ誕生日だ。
何をあげよう。
でも、なんでもない後輩が、あまり高いものを買っても引かれるだけだ。
なんか、テキトーな小物をあげよう。
大したものを買うわけでもないのに、死ぬほど悩んだ。
大学の授業は10月から始まる。
9月はずーっとオフ。
CRESTの部活も、9月中は休みで、各浜での練習を行っていた。
俺達CREST西浜チームは、少人数で西浜に行って、
他大の西浜メンバーと合同で練習することになっていた。
夏前に、3年3人、2年4人、1年7人だった西浜チームも、
夏中に1年4人が辞めてしまい、
2年生も、川田がちょっと部から離れ気味になっていて、
他にも、実家に帰省する者などもいて、
西浜練には、ほとんど俺と七瀬さんだけで参加していた。
そして、七瀬さんの誕生日の次の日、
プレゼントを渡す絶好のチャンスが来た!
今年の西浜女子寮だったとこで、二人っきりでメシを食べることになったのだ!!!
さすが、女子寮。
目の前には大好きな人。
俺は全力で料理を作った。
すぐ隣には手伝ってくれる大好きな人。
大好きな人と乾杯。
ご飯のおかわりをよそってくれる大好きな人。
大好きで大好きでたまらない人。
アタマがおかしくなりそうだった。
プレゼントも渡した。
小さなイルカのぬいぐるみ。
21歳の女子大生にぬいぐるみはアリなのか迷ったけど、
お腹を押すとキューキュー鳴くのが気に入って買ってみた。
あまりに安物というか、「重くない」ものを選んだおかげで、
「お!ありがと!」
って気軽に受け取ってもらえた。
その後も、よく二人で練習に行った。
夕方の2部練の開始まで時間が余った昼下がりには、
二人で昼寝もした。
近所の夏祭りにも行った。
祭りは何人かで行ったんだけど、
俺の気持ちを察知してくれたのか、それとも偶然なのか、
いつの間にかみんなとはぐれて二人っきりになってしまったりもした。
そんな楽しいひと時は、一瞬で過ぎ、
すぐに厳しい現実が訪れた。
ある日、西浜メンバーで飲み会をしていたら、
俺の聞こえるところで、七瀬さんが恋バナをし始めた。
その話し相手は、彼女が夏に仲良くしていたあの先輩だ。
どうやらまだ付き合っていなかったみたいだ。
元彼に戻るべきか悩んでいるようだった。
そんなの忘れて、俺んとここいよばりに口説き倒す先輩。
いくらなんでも強引だ・・・。ムカつく・・・。
でも、まんざらでもない様子の七瀬さん。
もし、少しでも俺のことを想ってくれていたら、
俺の聞こえるところでそんな話はしないはず・・・。
俺のことなんか、どうでもいいんだろう・・・。
俺はいてもたってもいられなくなり、イライラしてその場を離れた。
くそ・・・大会でみてろよ・・・。
そして大会がやってきた。
全日本選手権。In蓮沼。
去年の苦い思い出がよみがえる。
でも、俺はあれから、オーストラリアに行った。
もうあの頃の俺じゃないはずだ。
久々に再会した新潟の陽光や、拓大の天海君らワンダメンバーに、
成長した俺を見せる絶好の機会だ。
そして、七瀬さんにアピールするチャンス・・・。
レースは金土日の3日間。
なんとしても日曜日のファイナルまで残ってやる!
そう思って臨んだ。
結果、
予選敗退。
パドルボードレースの予選1本目で負けてしまった。
5人抜けのレースで7,8位・・・。
金曜日で終了。
俺は、速くなっていなかった。
ワンダのみんなも、七瀬さんも、部の同期も、
みんな土曜日に進めたのに、俺だけ・・・。
敗因は・・・練習不足だろうか?
7月まではそれなりにやっていたが、
8月からはあまり練習しなかった。
なんか、そんな余裕無かったんだ。
競技力を向上させる暇があったら一つでもガードの知識を養え!
的な空気に流されたのか、
いつの間にか、競技は二の次になっていたのだ。
こんな弱い気持ちで勝ち進めるほど甘い世界ではない。
なんか、毎回、当たり前に負ける自分が情けなく思った。
七瀬さんはというと、大活躍で、ランスイムランで2位になり、
全日本選手権銀メダリストになっていた。
この差。
途方もない、絶望的な差。
七瀬さんを口説いていた先輩も大活躍で、
ファイナル入賞を果たしていた。
西浜の大会打ち上げはつらかった。
あの先輩が、いつもにも増して、高いテンションで場を盛り上げ、支配している。
みんなつられて、楽しそうに笑っている。
そんな空気についていけない俺。
ちょっと年上で、引っ張ってくタイプで、面白くて、競技が出来る人が好き
そんな七瀬さんの目の前に、ぴったりの男がいる。
俺は年下で、引っ張れず、面白くもなく、競技もできない・・・。
きっと、七瀬さんはこの人と付き合う。
もう全てが嫌になった。
ふと近くを見ると、
同じく満足な結果を得られなかったはずなのに、
楽しそうに笑っている大泉さんを発見した。
大泉さんは西浜の先輩で、あの鬼の智春さんと同期の方だ。
ビーチフラッグの元インカレチャンピオンなんだけど、
今大会はレース中の不利もあって決勝に残れなかった。
そんな大泉さんに聞いてみた。
「どうして、楽しめるんですか?」
そしたら、間髪いれず、こう返ってきた。
「そりゃ悔しいよ。
でも、俺は後悔の無い練習をしてきたから、結果は仕方ないとおもってる。
それに、この負けで、自分の課題を見つけられたから、それが嬉しい。
常にポジティブに、今日はよくやったと思えるような生活が毎日できれば、
結果にいちいちクヨクヨしたりしないよ」
なんか、器が違うと思った。
この人は、何か・・・達観してるとさえ思った。
でも、大泉さんは、みんなを盛り上げる役はできない。
じゃあ、どうすれば、大泉さんのような強い心に加えて、
あの先輩のように、みんなを盛り上げられる人間になれるのだろうか・・・?
CREST内では、常に笑いを取って、みんなをまとめることもできる、
副主将の大田さんに聞いてみた。
「空気が読めて、周りが見えて、相手の気持ちを察せられる人間が、
盛り上げ役になれて、笑いもとれて、モテるんだと思う」
たしかに・・・!!!
あの先輩もまさにそんな感じだ。
俺には、どれも無いが・・・。
でも、それがわかった。
今の俺に無いもの、これから目指すべき道が見えた。
常にポジティブに、毎日後悔を作らず、
空気を読んで、相手の気持ちを理解しようとする・・・。
これができれば、大会に通用するようになるし、盛り上げられる人間になれる。
そして、きっと、七瀬さんにも届く・・・。
2000年の9月は、俺の人生の転機になった。
打ち上げが終わり、次の日を迎えると、
そこには夏の西浜は無くなっていた。
あ、サーファーが海に入ってる!!
もういいのか。
よく見ると、そこらじゅうに、昼間のサーフィンを楽しむ人々。
あったはずの海の家も、
昨日の内に夜逃げでもしたんじゃないかってくらいすっきりしていた。
それにしても、疲れた。
41日連続ガード、ひと夏53日ガードの代償は少なからずあり、
全身のダルさと、燃え尽き症候群のような無気力感に襲われた。
しばらく、何も考えずに休もう。
貯まったガード代を使って、中古のビデオデッキを買った。
2年ぶりに、自分の住んでるとこにテレビとビデオが揃った。
さっそく、ツタヤでプライベートライアンを借りてみたりもした。
中古のTVゲームも買った。
半日くらい、ずーっとそれをやってる日もあった。
中学時代のような生活。
でも、どこか空虚だ。
はぁ。
彼女欲しいな・・・。
「彼女」について考えると、必ずあの人の姿が浮かぶ。
そういえば、もうすぐ誕生日だ。
何をあげよう。
でも、なんでもない後輩が、あまり高いものを買っても引かれるだけだ。
なんか、テキトーな小物をあげよう。
大したものを買うわけでもないのに、死ぬほど悩んだ。
大学の授業は10月から始まる。
9月はずーっとオフ。
CRESTの部活も、9月中は休みで、各浜での練習を行っていた。
俺達CREST西浜チームは、少人数で西浜に行って、
他大の西浜メンバーと合同で練習することになっていた。
夏前に、3年3人、2年4人、1年7人だった西浜チームも、
夏中に1年4人が辞めてしまい、
2年生も、川田がちょっと部から離れ気味になっていて、
他にも、実家に帰省する者などもいて、
西浜練には、ほとんど俺と七瀬さんだけで参加していた。
そして、七瀬さんの誕生日の次の日、
プレゼントを渡す絶好のチャンスが来た!
今年の西浜女子寮だったとこで、二人っきりでメシを食べることになったのだ!!!
さすが、女子寮。
目の前には大好きな人。
俺は全力で料理を作った。
すぐ隣には手伝ってくれる大好きな人。
大好きな人と乾杯。
ご飯のおかわりをよそってくれる大好きな人。
大好きで大好きでたまらない人。
アタマがおかしくなりそうだった。
プレゼントも渡した。
小さなイルカのぬいぐるみ。
21歳の女子大生にぬいぐるみはアリなのか迷ったけど、
お腹を押すとキューキュー鳴くのが気に入って買ってみた。
あまりに安物というか、「重くない」ものを選んだおかげで、
「お!ありがと!」
って気軽に受け取ってもらえた。
その後も、よく二人で練習に行った。
夕方の2部練の開始まで時間が余った昼下がりには、
二人で昼寝もした。
近所の夏祭りにも行った。
祭りは何人かで行ったんだけど、
俺の気持ちを察知してくれたのか、それとも偶然なのか、
いつの間にかみんなとはぐれて二人っきりになってしまったりもした。
そんな楽しいひと時は、一瞬で過ぎ、
すぐに厳しい現実が訪れた。
ある日、西浜メンバーで飲み会をしていたら、
俺の聞こえるところで、七瀬さんが恋バナをし始めた。
その話し相手は、彼女が夏に仲良くしていたあの先輩だ。
どうやらまだ付き合っていなかったみたいだ。
元彼に戻るべきか悩んでいるようだった。
そんなの忘れて、俺んとここいよばりに口説き倒す先輩。
いくらなんでも強引だ・・・。ムカつく・・・。
でも、まんざらでもない様子の七瀬さん。
もし、少しでも俺のことを想ってくれていたら、
俺の聞こえるところでそんな話はしないはず・・・。
俺のことなんか、どうでもいいんだろう・・・。
俺はいてもたってもいられなくなり、イライラしてその場を離れた。
くそ・・・大会でみてろよ・・・。
そして大会がやってきた。
全日本選手権。In蓮沼。
去年の苦い思い出がよみがえる。
でも、俺はあれから、オーストラリアに行った。
もうあの頃の俺じゃないはずだ。
久々に再会した新潟の陽光や、拓大の天海君らワンダメンバーに、
成長した俺を見せる絶好の機会だ。
そして、七瀬さんにアピールするチャンス・・・。
レースは金土日の3日間。
なんとしても日曜日のファイナルまで残ってやる!
そう思って臨んだ。
結果、
予選敗退。
パドルボードレースの予選1本目で負けてしまった。
5人抜けのレースで7,8位・・・。
金曜日で終了。
俺は、速くなっていなかった。
ワンダのみんなも、七瀬さんも、部の同期も、
みんな土曜日に進めたのに、俺だけ・・・。
敗因は・・・練習不足だろうか?
7月まではそれなりにやっていたが、
8月からはあまり練習しなかった。
なんか、そんな余裕無かったんだ。
競技力を向上させる暇があったら一つでもガードの知識を養え!
的な空気に流されたのか、
いつの間にか、競技は二の次になっていたのだ。
こんな弱い気持ちで勝ち進めるほど甘い世界ではない。
なんか、毎回、当たり前に負ける自分が情けなく思った。
七瀬さんはというと、大活躍で、ランスイムランで2位になり、
全日本選手権銀メダリストになっていた。
この差。
途方もない、絶望的な差。
七瀬さんを口説いていた先輩も大活躍で、
ファイナル入賞を果たしていた。
西浜の大会打ち上げはつらかった。
あの先輩が、いつもにも増して、高いテンションで場を盛り上げ、支配している。
みんなつられて、楽しそうに笑っている。
そんな空気についていけない俺。
ちょっと年上で、引っ張ってくタイプで、面白くて、競技が出来る人が好き
そんな七瀬さんの目の前に、ぴったりの男がいる。
俺は年下で、引っ張れず、面白くもなく、競技もできない・・・。
きっと、七瀬さんはこの人と付き合う。
もう全てが嫌になった。
ふと近くを見ると、
同じく満足な結果を得られなかったはずなのに、
楽しそうに笑っている大泉さんを発見した。
大泉さんは西浜の先輩で、あの鬼の智春さんと同期の方だ。
ビーチフラッグの元インカレチャンピオンなんだけど、
今大会はレース中の不利もあって決勝に残れなかった。
そんな大泉さんに聞いてみた。
「どうして、楽しめるんですか?」
そしたら、間髪いれず、こう返ってきた。
「そりゃ悔しいよ。
でも、俺は後悔の無い練習をしてきたから、結果は仕方ないとおもってる。
それに、この負けで、自分の課題を見つけられたから、それが嬉しい。
常にポジティブに、今日はよくやったと思えるような生活が毎日できれば、
結果にいちいちクヨクヨしたりしないよ」
なんか、器が違うと思った。
この人は、何か・・・達観してるとさえ思った。
でも、大泉さんは、みんなを盛り上げる役はできない。
じゃあ、どうすれば、大泉さんのような強い心に加えて、
あの先輩のように、みんなを盛り上げられる人間になれるのだろうか・・・?
CREST内では、常に笑いを取って、みんなをまとめることもできる、
副主将の大田さんに聞いてみた。
「空気が読めて、周りが見えて、相手の気持ちを察せられる人間が、
盛り上げ役になれて、笑いもとれて、モテるんだと思う」
たしかに・・・!!!
あの先輩もまさにそんな感じだ。
俺には、どれも無いが・・・。
でも、それがわかった。
今の俺に無いもの、これから目指すべき道が見えた。
常にポジティブに、毎日後悔を作らず、
空気を読んで、相手の気持ちを理解しようとする・・・。
これができれば、大会に通用するようになるし、盛り上げられる人間になれる。
そして、きっと、七瀬さんにも届く・・・。
2000年の9月は、俺の人生の転機になった。