つぶやきが俳句になる?
短文詩作が苦手な自分にもこれならできるかも・・と、いくつか作ってみた。
夕べ送ったメールが今朝届く
蓑虫は異名の通りブルーベリーには鬼の子
それでもやっぱり好きになった気持ちは消えない
検索しようとしたワードをど忘れ
車中で多作 降りた途端 健忘症
帰郷の日
登 場 人 物
木谷 泉 (44) イラストレーター
木谷 和子 (74) 泉の母
本田 真紀 (44) 泉の幼なじみ
○高速バス・車中
窓際の席で眠っている木谷泉(44)。
○木谷家・全景
木造二階建。
通りに面して玄関、縁側がある。
縁側の前の庭にすすきの一群が自生している。
○木谷家・玄関・中
胸に「本田醤油(株)」の刺繍入りの紺の事務服を着た本田真紀(44)が、
一升瓶を抱えて引き戸を開けて入ってくる。
真紀「こんにちは、本田醤油です」
奥から木谷和子(74)出てくる。
和子「あら、真紀ちゃん、ありがとう。
配達までしてもらって、いつも悪いわね」
財布から代金を出し真紀に渡すと、醤油の入った一升瓶を受け取る和子。
真紀「取っ手のついたペットボトル入りのもあるんですけど、これで良いんですか?」
和子「この方が使い慣れてるのよ。これがあるからおたくに頼んでるようなもんだし」
真紀「(明るく)毎度ありがとうございます」
和子の肩越しに、少女漫画のようなイラストの刷られた「きたにいずみ原画展」のポスター。
真紀「泉、こっちで個展やるんですか?」
和子「あぁ、何だか版画のようなのも出して売るって。
私にはよく分からないんだけど」
真紀「それシルクスクリーンとかリトグラフとかじゃないかしら?
一つ何万も何十万もするんですよね」
和子「こんな漫画漫画した絵のどこにお金払う人間がいるかって思うんだけどね」
真紀「でもおばさん、18で漫画家デビューして、今や売れっ子のイラストレーター、
私たちの中では出世頭なんですよ」
和子「けどねぇ、40すぎて結婚もせず、親不孝だよ、やっぱり・・。
長男とこもね、仕事が忙しいとか受験がとか言って、ここんとこちっとも帰ってこなくてねぇ・・」
真紀「でも、何の取り柄もない私なんかにしてみれば、泉の生き方うらやましいけどなぁ・・」
和子「真紀ちゃん前に言うのもなんだけど、
せめて出戻りになってもいいから、一回ぐらい結婚してくれてたらって思うこともあってね」
苦笑する真紀。
○高速バス・車中
ふと目を覚ます泉、再び寝入る。
真紀の声「じゃ、泉、こっち帰ってくるんですか?」
和子の声「今度の個展を機に、こっちに腰落ちつけるんだって。
そういや、もうじき帰り着く頃なんだけど、遅いね」
○木谷家・玄関・中
大荷物を抱え、入ってくる泉。
奥から出てくる和子。
和子「おかえり。なんだい、その大荷物は?」
泉 「画材。持てるだけ持って帰ってきた」
和子「送れば良かったのに・・・」
泉 「命の次に大事な商売道具だからね」
和子「引越し荷物は?」
泉 「明日、宅配で送った荷物くるはず」
和子「それだけ?」
泉 「置く場所ないでしょ、ここ。家財道具、あっちで処分してきちゃった」
あきれる和子。和子を見る泉。
泉 「ただいま母さん。老けたね。でも、元気そうで良かった」
荷物を持ったまま奥へ行く泉。
和子「何だい、ロクに帰って来もしないで。
何年も会ってなきゃ、こっちも老けるよ」
○木谷家・庭(夜)
茶の間の灯りに照らされているすすき。
○木谷家・茶の間(夜)
縁側との境の障子は開け放たれている。
座卓に向かい合って座る和子と泉。
缶ビール片手に手際よくすき焼きを作っていく泉。
泉 「あー、やっぱり茶の間は落ち着くよねー」
和子「何だか二人きりですき焼きなんて贅沢な気がするねぇ」
泉 「私の帰郷パーティーだからいいの。
・・・知ってる? 長寿のお年寄りってね、高齢でも普段からちゃんとお肉食べてるって」
和子「・・・人を年寄りあつかいしてないかい?」
泉 「母さんも飲む?」
和子「私は遠慮しとくよ」
泉 「あ、ここもういい感じ。ほらどんどん食べて・・・」
和子「おや、このお肉、ホント柔らかい・・・」
縁側の戸が風でガタガタいう。
泉 「いけない、私、2階の窓、開けたまんま」
立とうとする泉を和子、制止する。
和子「いいよいいよ、私が閉めてくる。泉はゆっくりしてなさい」
立ち去る和子。
卓上のすき焼きグツグツ煮える。
ビールを飲みながらくつろいでいる泉。
奥から響くドシンという大きな音。
泉 「母さん?」
立ち上がる泉。
○木谷家・全景(夜)
真っ暗だった家に灯りがともる。
○木谷家・縁側(夜)
灯りのついた茶の間、人の姿はない。
庭へ回ってくる人影。真紀が一升瓶を抱えている。
施錠してないガラス戸を少しあけて腰をかけ、庭のすすきを見ている。
泉の声「そうじゃなく、お金のことは今はいいから。
ただ母さんも歳が歳だし、寝込んだときのこととかもね、私も仕事抱えてんだし。
だから今すぐどうこうっていう事よりも、先々のことをね、考えといてほしいわけよ」
コードレスの電話を切りつつ茶の間に入ってくる泉。
振り向く真紀。
泉 「あ、驚いた。 真紀? わぁ何年ぶりだろ」
真紀「ごめん、勝手にお邪魔してた」
泉 「・・いいけど、どしたの今頃?」
真紀「おばさんのこと聞いて。・・大丈夫なの?」
泉 「痛み止めで落ち着いたから、帰ってきちゃった。
明日精密検査するって」
真紀「電話してたの、お兄さん?」
泉 「うん。
実は兄と相談して今度からこっちで仕事することにしたんだけど、
やっぱり私一人じゃ無理かなぁって弱気になって・・。
ね、ときどき訪ねてくれてたって?母のとこ」
真紀「ご贔屓にしてもらって・・」
泉 「離婚して、実家手伝ってるんだってね?」
真紀「うん、私もいろいろね・・・・」
真紀の横の一升瓶に気付く泉。
泉 「配達?」
ラベルを泉のほうへ向ける真紀。
真紀「お酒。帰郷祝いにと思って。イケル口だって聞いてたから・・・」
泉 「うれしい。・・・ね、飲まない?」
真紀「いいの?こんな日に・・」
泉 「いいのいいの、本当にうれしいのよ、子どもの頃の友達と飲めるなんて・・・」
促され、縁側から部屋に上がる真紀。
○木谷家・庭(夜)
風に揺れているすすき。
<終>