6月になった。

 

令和4年8月から実施した従業員の勤務体系や賃金体系などの勤務体制を抜本的に改正するため令和4年4月から検討を進めた。これまでの実態把握、抜け穴など不備な点のチェック体制、シフト組み合わせ、周辺地域の実情、同業種とのバランス、今後の管理組合従業員のあるべき姿、管理人件費、法定福利費など検討項目は多岐にわたった。

 

一緒に考えてくれる仲間はいなかった。忙しいという理由で断られるのだが、きっと労務のことはわからないというのが本音なのかもしれないと思っていた。自分が単独で進めることになる。基礎からの立て直しになったため、たいへんな作業になった。

どこから手をつけてどのように改善するか、もしくは新しい何かを加えるのかを考える。そしてプランを作りシミュレーション(模擬演習)、検証、修正改善、それを踏まえて再プランにして繰り返して作り上げる。

 

2ヶ月半経った6月後半、今度は各検討項目でおよそ出来上がった実施案の不明点を質問したり、従業員と事業主との正常な関係を確立するために労働基準監督署に日参して行政指導のリーガルチェックを受けた。令和4年6月26日理事会に当時理事の自分は最終的に実施案として議案に盛り込んでもらって決議承認を得る。

 

最低限の管理組合労務管理として、令和4年6月下旬に旧就業規則の廃止(但し現状に即して今までの問題点をできるだけ判断処理できる新就業規則の早期制定)、全従業員に対して労働条件通知書(雇用契約書)の交付(従業員の署名捺印した本書は管理組合保管)、従業員の入社書類(誓約書、写真付き履歴書、マイナンバー入り住民票〔扶養家族分含む〕など)の管理組合保管など

 

それに伴って管理事務所でタイムカードの設置、全従業員のシフト表毎月作成、従業員用連絡帳の活用などが始まることになる。

 

労働条件通知書作成交付において一番重要視したのは必ず新規従業員は契約社員(1年更新)とすることにした。これは理事長の意向が働いていた。同時に自分も全面的に賛同していた。従業員数十人以上の会社経営の現役または経験があるものは労使関係について本当に繊細で細心の配慮が求められることを身に染みてわかっている。

労働者に対する権利保護は半世紀前から現代まで年々強化されてきた。現在一旦雇い入れると明記された義務や規律などの重大な違反がなければ解雇することができない。最初の3ヶ月を試採用期間としていても3ヶ月後に解雇はできない。

 

アルバイトの後、引き続き正式な従業員と雇い入れる場合でも、もしアルバイト期間中に正従業員として採用不適格と判断したとき、アルバイト就業期間終了時に正従業員として雇入れずに済むように管理組合は雇い主として組織防衛しなくてはならない。そのために労働条件通知書の雇用期間を明示して「期間の定めあり」とし、さらに「更新しない」として更新理由のその他の欄に「雇用期間終了日でアルバイトは終了する」と追記を行う。労働基準監督署によれば、これで雇い主側からその終了日でアルバイトとの雇用契約を終えることができるということだった。

 

次に正従業員として1年更新の契約社員の雇用契約した場合は5年継続で自動的に無期雇用に切り替わる。丸4年時に雇用更新すると事実上無期雇用に切り替わる。通常更新するしないは丸3年までとされているが、昨年春からは丸3年まででも更新しないとき雇用主側は正当な契約終了理由がないと雇用契約解除が難しくなってきていると聞く。

 

労働者保護政策を強化させていくことは無論理解できるが、その一方で企業が本当に仕事をしない従業員を一旦雇ってしまい、あとでわかったとき、その労働者に辞めてもらえるような何らかの仕組みも企業活動阻害防止のためにも必要ではないのだろうか。

 

このマンションの労務管理は新規で従業員を雇い入れる時は3ヶ月先までを限度に期限付きのアルバイト雇用とし、その後1年更新の契約社員とする。70歳定年なので75歳までの雇用延長制度を設け、その5年間も1年以内まで更新の契約社員とすることとした。

 

これがこのマンション管理組合の労使関係を決定づける労務管理の基礎となった。理事長の意向に沿ったもので自分も今の自主管理としてはこれが一番と思っていた。あとはこれから刻一刻と変化する労働行政や管理組合従業員体制に応じて修正していけばいいことなのだから。

 

マンション管理の柱はよく修繕と会計といわれる。でも、それを行う実働部隊が必要になる。実働部隊は管理会社に委託する場合と自主管理で従業員を理事会が直雇いする場合のどちらかになる。このマンションは自主管理なので従業員を直に雇っている。そしてマンションの管理は直雇いの従業員が修繕や会計を担うことになる。

 

7月末にアルバイト終了となっていることに不安をもっているSは6月5日から勤務開始となった。決算でバタバタしている事務所に会計担当事務職員として勤務を開始した。その時は自分はSの実力を知らなかったが、知人やSの話の内容を少々聞いていたので、とても期待していた。何より周囲の人間関係や職場環境の悪い部分に巻き込まれないように祈っていた。

Sが来てだいぶ経った令和6年、Sが会計だけでなく労務管理事務のキャリアも十分あることが自分にはわかるようになる。何より決していいとは言えない職場環境にあってもSはすべき仕事を淡々とこなしていた。Sのしなやかさには管理組合全役員に代わって敬意と感謝を表したかった。

 

Sが勤務開始した頃に2つのことが起こる。5月末にVが1階温泉浴場のJの貸し切り問題で管理士顧問に連絡したが返事がないと自分に言ってきたこと。もう1つは2階の部屋から多量の水が1階の3部屋に落ちて水浸しにしてしまう事故が起きたこと。

 

以降の話は次のブログ「マンション自主管理組合57」に譲ることにする。