「謝罪します」「お詫びします」という言葉を発すれば謝罪したことになるのだろうか? テレビの報道番組で「お詫びして訂正いたします」とたまに聞くことがある。これは謝っているのかといつからか疑問を持つようになった。
「ごめん」「ごめんなさい」「スミマセン」「申し訳ない」「申し訳ありません」「申し訳ございません」の言葉こそが謝罪、お詫びの言葉だと思うのは自分だけだろうか。
謝罪の場面も公私で分かれる。
私(わたくし)になる家庭は夫婦、親子、兄弟姉妹の間のことなのでここでは割愛。
公である職場・事務所・外出先(ビジネスシーン)で考える。
ビジネスシーンでは同僚・上司・部下・担当者・外部関係者(得意先、顧客)の間。
1つの部署の中である業務を数人で分担していたが、誰かがミスを犯して他からクレームが来たり、締め切りに間に合わず他へ成果を第三者に引き渡せなくなって迷惑をかけた時を例として考える。
部署の責任者から担当者全員に原因と責任の所在、再発防止など反省を求めることになる。担当者の中で原因者とそれ以外の者に分かれる。この時、原因者はそれ以外の者や第三者に迷惑をかけたと謝罪するのは当たり前だが、それ以外の者はどうか。
それ以外の者たちはほとんどの場合において責任者や第三者に謝罪しない。原因者とある業務を分担して行っていたら原因者を含めてメンバー全体が連帯責任に負う。例えほとんど責任がないと言っても、原因者をチェックできず第三者に迷惑をかけたのならなおさらだ。同僚間で責任追及は大いにやればいいが、その僅かな責任部分についてそれ以外の者は責任者や第三者に謝罪すべきものとなる。
ここが難しい。原因者がミスばかり、サボっている、任された業務に取り組まない、注意してもきかないのが今回のトラブル原因なのだから、それ以外の者はなぜ謝らないといけないのかという謝罪不要論が必ず出る。不満愚痴も出る。
自分も会社の経営をしてきた中で色々なトラブルが社内で発生して第三者に迷惑をかけることがよくあった。原因者には注意指導し反省を促す。酷い時は叱責、警告、始末書の提出を求める。原因者の能力、態度姿勢、人間関係によっては配置転換も考慮しなければならなくなる。そして同じ業務を分担していたメンバーにはいくら原因者に99%の責任があっても僅か1%でも他のメンバーに過失(例えば問題が起こるまで上司に報告しなかったとか)があるなら、その1%の過失責任について第三者に原因者と一緒もしくは個々に謝罪すべきではないかと他のメンバーといつも議論する。
無論、経営者は従業員のミスで第三者に迷惑をかけて直接解決に乗り出した時は必ず謝罪する。従業員のせいで経営者は悪くはありませんなんてバカなことは決して言わない。だからといって同じ部署にいたあるいは同じ業務をしていた他の従業員は第三者に謝罪するのは経営者だけ上司だけがすればいいと思うのだろうか。そんなことで今後第三者と引き続き信頼を得て直接連携していけるのだろうか。もっと問いたい言いたいことがあるが、これくらいに。
これが経営者としての自分の考え方であり方針だった。
原因当事者なら素直に謝罪できるかどうか、その原因当事者周辺にいる関係者なら、その関係者の、会社の、その部署の、過失責任を謝罪できるかで関係者の度量も決まる。
よく交通事故の現場で当事者同士が警察が現場検証に来るまでの間、お互いの連絡先や救護の確認をすることがある。その時にどちらか一方が相手に「スミマセン」というなと教えられることがある。あとで法的係争になった時、証拠にされ不利になるから謝るなと入れ知恵される。6(相手):4(自分)の過失割合で4の自分が「スミマセン」と言った。それが原因で5:5の過失割合になんて絶対ならない。自分なら相手も自分もケガをしている時、相手に「大丈夫ですか、スミマセンでした」と普通に口をついて出てくる。人として目の前に傷ついている人がいて、その人を傷つけてしまったのではないかという気持ちからスミマセンというのはごく自然のことで駆け引きなんかではない。
もう1つ、顧客からクレームが来て、説明謝罪にいくことがある。中には顧客の勘違い、事実誤認、八つ当たり、憂さ晴らしもある。そんな時はわかっていても相手が収まるまで説明と「申し訳ありません」を繰り返し謝罪する。これを顧客が間違っていると対等にわたり合うと収まるものも収まらず、火に油を注ぐことになり、大問題となる。
だから「負けて勝つ」ことが一番まるく収まりやすい。相手に優越感を与えてあげればいい。そんな考えが働いて、すぐに「申し訳ございません」と聞こえるように合いの手をいれるようにして繰り返し言えば抜いた刀は元の鞘に収まる。相手の目を見て話すことも大事。
99%自分のせいではないので絶対謝りたくない、謝ったら負けで負けるのは嫌、謝るのは他の誰かがすれば良い、謝ったら非を認めたことになる、と人によって謝罪に対する考え方は違うが、自分は解決するなら誠心誠意謝罪する。
さて、色んな問題に遭遇しても謝罪しないことに意地とプライドをもっている人は自分から言えば、かえってその人の評価を下げるのではとも思う。経営者の立場では必須の考え方の1つでもあるが、従業員や担当者の立場でも役に立つことが多い。騙されたと思ってトラブルが起きたら試してみたらいい。うまくいきそうなら「負けて勝つ」流儀の奥義を究めて免許皆伝になれば謝罪の達人になる。別にそんなケースには遭遇しないので「そんなもの要るか!」であれば、ここまでの話し。