父の通夜、葬儀、初七日を済ませ役所には死亡届けを出し、四十九日を終えた頃、病気だからと自分の家族が反対するのを押さえて、母と妹と自分の3人で父の相続について話し合うよう自分が声をかけた。
このまま行けば、父が死亡した日から3ヶ月後、父の債権債務の財産すべてを相続することになる。法定単純承認という単純相続となる。
父の場合、預貯金や父名義の不動産はまったくなく、借金、一審で1,000万円の債務名義が確定しているなど、莫大な債務を抱えて亡くなった。ついては司法書士に依頼して家庭裁判所に相続放棄の申立てをして、これらの債務をすべて回避するよう母と妹に説明して3人揃って相続放棄した。
続いて父から見て、2親等以内の祖父母両親兄弟姉妹(伯父叔母)も相続の対象になるので、生存している者、死亡した者はその子(従兄弟)が相続放棄の申立てをしなければならなかった。存命中も散々親戚に迷惑をかけていたが、死んでも迷惑をかけ続けるとは呆れるばかりだった。
ある日役所から母に父の還付金があるから、還付申請をして受け取って下さいと通知がきた。母からどうしたものかと自分に相談してきた。即座に母に絶対申請しないように告げた。
税金等公金も債権(還付)と債務(納付)がある。しかも公金は自己破産で免責されても、納付義務は残る。
だから父の還付金を受け取ったら、父が滞納している多額の税金等を納付する義務を背負うことになる。
役所の担当者に連絡すると、案の上同様の見解が示され、危うく役所にはめられるところだった。担当者は相続人(母、妹、自分)の家庭裁判所から交付された相続放棄申述受理通知書の写しを送るように言われ、送付して一件落着となった。
のつもりだったが、一つ悩ましい問題が残った。腹違いの弟のことだった。まだ、妾とその子は父の死を知らない。放置すれば、弟に父のすべての借金がいくことになる。
意を決して妾に最初で最後の電話をいれた。父の死を告げ、父の死を知った日から3ヶ月以内に相続放棄するよう進言した。司法書士も紹介した。妾に相続争いすることがなくなって幸いだと告げた。30歳を過ぎた弟には何もしてやれないが、強く生きろと伝言を頼んだ。
自分は学生時代にアメリカ旅行で真の見聞を広め、卒業後社会人としてがむしゃらに仕事に取組み、世の中の厳しさと人情を知り、経済的困窮をくぐり抜け、今、人生の後半真っ只中を平穏に暮らしている。時と社会の流れを一歩引いたところから眺めて生きていきたいと強く思っている。
完