ハナがご飯を食べないなと心配でした

シホ子さんは今朝は病院がハナを一日預かると言っていた
糖尿の経過の検査だ
朝ハナを連れて出た
あれ?ハナは家にいた
連れて帰ってきたらしい

夕方雨が降ったら迎えに行けないって言うから
雨が降ったら私が迎えにいくから検査してもらったらと言ったのに
わかんないからってアナタ
忘れたの?それとも病院に行かれると何か都合が悪いのか?

雨ってアナタ
雨でもみんな行くの
犬は病気なんだから
車が運転できない人は傘さしてゲージ持ったり、自転車でカッパきたり、タクシー呼んででも行くのよ
アナタが聞かずに糖尿にしたのに
そうか、そんな人だから犬を糖尿にしてしまったんだね
嫌な納得

今日は三時半に夕飯分を食べさせちゃった
かつぶしかけてたよ
いいのか?
せめてかつぶしかけないで余計なカロリー
だって、くれくれねだるほどだったんでしょ
そんな時間にあげるなんて
雨だよ
注射打ってもらいに病気行かないよね

電話した病院
困りました
えさが残ってたらそれを食べさせて6時くらいに打ってって
ないんですけど
えさ残ってないんです
お手上げです


かわいそうなのはハナ
また水を飲む量が増えて
マットにおしっこをするようになった
糖尿が悪くなる
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有楽町の交差点。年末の人込み。宝くじを求めて並ぶ長い列。夕暮れの街。西の空には薄暮にうっすらと夕焼けの名残。東の空の低い位置にフルムーン。いろいろなクリスマスソングが耳もとに小さな渦を作る。キラキラと飾られたショーウィンドウ。イルミネーションで飾られた並木や外灯。阪急と西武の間。マリオンの通路では白い天使がトランペットを吹きならし、足早に過ぎる人の頭上で祝福をのべていた。
「あれは火星?」
とミチルが聞く。

周りの星より大降りでよく光る赤い星が空に出ていた。
僕の言葉に耳を傾けたのか、それとも別にミチルの気を引くことがあったのか、ミチルは動きをとめて固まった。
湿り気を帯びた空気が、どんどん下がってきていた。もうすぐ雨が降るのだろう。
しばらくすると、虚ろな眼をして立ち尽くしていたミチルは、ゆるゆると部屋の中を移動しはじめた。百歳の老婆のように足をひきずりながら。ゆっくりと窓辺へと動いていく。
そとはまだ明るいが、六月のはじまりの頃の夕暮れは寂しい。それから、もうすぐ雨が降るはず。
窓は庭の風景が白い窓枠で縁取られて見える。緑色の紫陽花が見える。
「ワイン、どうしたの」と聞いてみる。
すると、ミチルの動きの少ない唇から、とりとめのない言葉が流れ出てきた。
「ワイン、ナイノ、ワイン、ソコニ」
「飲んじゃったの?みんな?全部?」
ミチルさ僕の問い掛けの単語一つ一つに、一つずつ小さく頷く。
「無くなったら仕方ないでしょ」
まるで自分と重ねるような眼差し。でもミチルはミチルだ。グラスのような静物ではないし、だから現実とは馴染めない。
ゆらゆらとミチルは立ち上がり、陽炎のような足取りで踏み出した。
彼女の背に暗い影が落ちている。底無し沼のような影。
少し口を開いたまま、ゆらゆらと僕の方へ歩いてきた。喉から微かな音がしている。
「ワイン・・」とミチルは言っていた。
「なに?」と聞き返す。やさしく、おだやかに、聞き返した。ミチルの言葉は、いつもなかなか聞き取れない。でも、投げ出すとすぐにばれてしまう。
カチカチ、カタカタ、小さな硬い音が聞こえてくる。ミチルがワイングラスを噛んでいる。
試すように、確認するように。
グラスの中で赤いさざ波が立っている。小刻みに揺れるその液体は、震える小さな生きもののようだ。
両手でグラスを包み込むように持ち、ミチルはワインを飲んだ。大切なものを疎んじるような仕草で。
空になったグラス。見つめるミチル。
首を傾げ不思議そうに眺め、ミチルは次にグラスを置いた。置かれたグラスは、ただの静物にもどり、ゆるやかに現実になじんでいく。
そのさまをミチルは見守る。
唇の端から、少し零れて滴れた。
赤い滴が、青白い顎に流れる。
ミチルは気が付かないのか気に留めないのか。
虚ろな表情でグラスの淵を噛んでいる。
割れてしまうよ。チカラを入れたら。
まるで君のようだね。グラスは。
君の心は、こんなグラスのようだよ。無駄に零れるワインは君の血だね。
カリリと音がした。ミチルの歯がグラスを噛む。