『神様のカルテ』・・・止まない雨はない。
- 神様のカルテ/夏川 草介
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内容(「BOOK」データベースより)
神の手を持つ医者はいなくても、この病院では奇蹟が起きる。夏目漱石を敬愛し、ハルさんを愛する青年は、信州にある「24時間、365日対応」の病院で、今日も勤務中。読んだ人すべての心を温かくする、新たなベストセラー。第十回小学館文庫小説賞受賞。
陳腐な台詞も受け入れられる
栗原一止は、松本にある本庄病院の勤務する五年目の内科医。
愛する細君(ハルさん)との、初めての結婚記念日も忘れてしまうくらい、地方病院の勤務環境は厳しい。しかも、周りからは変人扱いをされている。一止が敬愛する夏目漱石の影響により、話し方がとても古風なのが原因?
話し方がとても古風な主人公の一人称のため、読み始めはちょっと違和感。
でも、読み進むうちに、独特のリズムに乗ってしまっていたのだ。
主人公・一止の人物像が面白い。
夏目漱石のを敬愛し『草枕』を全文暗誦できるくらい読み込み、挙句の果てに・・・「智に働けば角がたつ、情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とにかく人の世は住みにくい」と、大学の医局には入局せず、現在に至る。
フラフラしてて地に足がついてない感じなのだが、本人はいたって真面目。
「良い医者」になりたいが、何を持って「良い医者」とするのか・・・
医者という職業について真剣に悩んでいるのだ。
そんな一止へ、医局から大学病院へのお誘いが舞い込む。
大学病院での最先端医療か地方病院でのお年寄り相手の一般医療か。
同僚や上司、住居である御嶽荘での友人達、愛する細君。
一止にも劣らないちょっと変わった人達とのふれあいの中、進む道を模索する。
地域医療と大学病院の医局制度に対する問題定義を織り込みながらも、社会派ドラマの色は薄い。それもこれも、「良い医者」になりたと純粋に願う一止の視点で物語は進むから。
末期癌の患者さんと一止の一連の話には、目頭が熱くなる。
御嶽荘の友人との別れには、涙腺が緩くなる。
「明けない夜はない。止まない雨はない。そういうことなのだ」
こんな陳腐な台詞が、他の作品で出てきたら、その場で本を閉じる。
でも、一止にはこういう風な言い回ししかできない。
こういう台詞がすんなり受け入れられる主人公の物語ということなのだ。