夕暮れ時。

久しぶりに取った有休をパチンコ屋で無駄に過ごした俺は

鉛の様に思い心とヘリウムの様に軽い財布と共に帰宅した。

玄関を開けると薄暗い部屋に点滅する留守電のランプが

目に入った。

携帯が主流のこのご時世

留守電を入れる相手と言えば大体想像が付く。

マナーモードにしたまま一日見ることのなかった

携帯に目をやると

着信10件。

履歴を見ると会社、会社、会社・・・会社。

オール会社。

一体俺は何をやらかしたんだ・・・

嫌な汗が携帯を持つ手に滲む。

こんなに執拗に掛けてくるって事は余程の事があったに違いない。

より一層どんよりした気分になりながら、

留守電の再生ボタンを押す。

「・・・昨日、健康診断を受けて頂きました〇×病院の

 △□と申しますが、結果の事で至急お知らせしたい事が

 ありますので留守電聞かれましたら直ぐにお電話下さい・・・」

えっ?

再生されたのは意外にも上司の罵声ではなく、

緊迫した感じの女性の声だった。

ホッと一安心。

なんて出来るはずもなく、別の嫌な汗が背中を伝う。

そして続けて再生されるメッセージ。

「おい。今病院から健康診断の件でってi-char宛に電話が

 あったぞ。至急掛けて欲しいそうだから早く掛けろよ!」

いつもと違う上司の声。

それが逆に事態の深刻さを物語っている様で

恐ろしさを感じた。

一体俺はどんな病に侵されているのだろうか。

結果を発送する事無く職場や自宅へ電話をして来ると言うことは

余程、重病なのであろう。

しかし、自覚症状がないだけに想像も付かない。

軽くパニックになりつつも、

取り合えず会社に連絡をしなければと思い

震える指でダイヤルした。

殆どコール音が鳴る事なく、上司は電話に出た。そして

「大丈夫かi-char!一体どうしたんだ!何の病気だ!重病なのか!治るのか!」

と矢継ぎ早に質問した。

普段は冷酷無情な上司がこんなに心配してくれている様を見ると

実はいい人なんじゃないかと言う錯覚に陥る。

「えーっと、まだ病院には電話をしていないもので何とも・・・」

「バカ野郎!病院に電話する前にこっちに電話して来てどうするんだよ!このカス!!!」

怒鳴り声と共に電話は切れた。

いい人だと思ったのも束の間、一瞬で冷酷無情な上司に戻った様だった。

しかし、この方が何故かしっくり来るのは

きっと俺がドMだからであろうか。

そんな事を考え気を紛らわせながら、

留守電に入っていた病院の番号に電話を掛けた。

名前を告げると直ぐに判った様で看護師と思われる女性が話し始めた。

「血液検査の結果なんですが、かなり危険な状況であると出ています。

一刻を争う状況ですので直ぐにこちらに来て頂いて治療を受けて頂かない

と生命に係わります・・・」

かなり危険?いっこくどう?生命に係わる?

意識が遠のきそうになるのを必死に堪えながら

一体何が悪いのかを尋ねた。

看「かなり高い割合で心筋梗塞を発症しています。血液の状況を見ると筋肉がボロボロです。」

心筋梗塞?胸に痛みは全くない。ただ痛むのは・・・

俺「確かに痛みますが・・・」

看「心臓が痛みますか!直ぐに救急車を手配します。」

俺「いや。痛いのは心臓ではなく、全身ですが・・・」

看「全身が痛むのですね。気を確かに持って下さい!

  直ぐに救急車を向かわせますから!」

俺「いや。大丈夫です。そんな危険な痛みではない気が・・・。」

看「ではどんな痛みなんですか!!」

俺「筋肉痛です。」

看「筋肉痛の様に痛むのですね!!」

俺「いや。本当に筋肉痛です。」

看「・・・。最近何か激しい運動されましたか?」

俺「入隊5日目です。」

看「入隊?」

俺「あっ噂のビリーです。」

俺・看「・・・。」

俺「激しい運動している時とかそう言った数値になったりしませんか?」

看「・・・。尋常じゃない負荷を掛けたトレーニングをすればなる可能性はありますが・・・。」

俺「応用プログラムは尋常じゃないんです。」

看「そうなんですか・・・。」

俺「もう電話切ってもよろしいですか?」

看「でも、もし、異常を感じた場合には直ぐに来てくださいね。」

俺「はい。でも多分ないと思います。」

入隊中に健康診断に行くと異常な数字が出るみたいなんで

みんな気をつけようね!