高ナトリウム血症

高ナトリウム血症は日常診療でよく目にする病態です。血中のナトリウム濃度が濃くなっているわけなので,水で薄めてやるのが基本方針になります。簡単です。

 

薄める水は何を使うの?

水って何を使うの?とお思いでしょう。ナトリウムを水で薄めるわけなのでナトリウムフリーがいいですね。では真水入れちゃえばいいですかね?

 

基本的に輸液製剤で完全な真水というのは存在しません(注射用蒸留水というのはありますが,薬剤と混ぜて使うことを前提としたものです)。なぜ真水がいけないのかというと,浸透圧が関係してきます。血中に真水を入れると浸透圧が低すぎて,血中の細胞成分(具体的には赤血球)が破裂してしまいます。こんなものを大量に入れようものなら,それはもうエラいことです。

 

というわけで,ナトリウムフリーで,血球が壊れない程度の浸透圧のある輸液製剤を選びましょうということになります。それは 5% ブドウ糖液です。よく勘違いしている人がいますが,5% ブドウ糖の糖は別に栄養のために入っているわけではありません。血球が壊れない程度の浸透圧を生み出すために入っているのです。

 

ただし例外があります。高ナトリウム血症には水分が少なすぎて血管が虚脱するくらいのひとがいます( Hypovolemia )。この状態は循環不全をきたすので,高ナトリウム血症よりも先に治す必要があります。したがって極度の脱水状態の人は細胞外液で血管内を充足させる治療を優先しましょう。

 

輸液まとめ:

  • 基本は 5% ブドウ糖液を選択する
  • Hypovolemic の状態なら先に細胞外液で輸液負荷して血管内を充足させる

 

どれぐらい入れるのか?

正常な血中ナトリウム濃度はおよそ 140 mEq/L です。高ナトリウム血症の患者はこれより値が高いので(たとえば 160 mEq/L ),140 mEq/L まで希釈させる必要があるわけです。

 

体内の水はつぎのような公式で導き出せます。

 

推定正常水分量 = 体重 × (定数)

定数:男性=60%,女性=50%,高齢男性=50%,高齢女性=45%

 

また,ナトリウムが多いということは相対的に水が足りていないということなので,次の式が成り立ちます。

 

不足水分量 = 推定正常水分量 × [(Na濃度)− 140 ]÷140

 

この不足水分量を 5% ブドウ糖で補うわけです。

 

急速に補正すると脳が腫れる

高ナトリウム血症の状態では体全体が水不足で,全体的に浸透圧高めです。この状態の体に一気に 5% ブドウ糖を入れると,血管内は急激に浸透圧が下がりますが,膜を隔てた向こう側の臓器(この場合は脳)の浸透圧はまだ高いままです。水は浸透圧の高い方に流れて浸透圧を合わせる方向に動くので,脳には大量の水分が入ることになります(いわゆる脳浮腫)。一方,脳は頭蓋骨という閉鎖空間(逃げ場のない空間)にあるので,脳が腫れると圧力が上がり,その圧力により脳の細胞がダメージを受けます。したがって,高ナトリウム血症の補正は緩徐に行う必要があります。具体的には 24 時間で降下させてよい最大値は 12 mEq/L までです( UpToDate ではさらに安全性を考慮して 10 mEq/L としています)。

 

以上をまとめると,高ナトリウム血症では「不足している水分量」と「適正な補正速度」が重要になります。

 

治療の裏ワザ

まあそんなわけで,高ナトリウム血症の治療には毎回,「不足水分量」と「適切な速度」を計算していたんです。しかし,前述の不足水分量を求める公式をつかった裏ワザがありました!ミソは正常より 1 mEq/L 濃度が濃い,141 mEq/L での不足水分量を求めるのです(定数は 50% とする)。すると不足水分量はおよそ 3 mL/kg となります。つまり,

 

「ナトリウム濃度 1 mEq/L を下げるのに必要な水分量は 3 mL/kg 」

 

とうことになります。あとは速さだけ気をつければ良いので,24 時間で 10 〜 12 mEq/L を下げることから,1 時間あたりに直すと 0.42 〜 0.5 mEq/L/hr となります。1 mEq/L 下げるのに必要な水分量は 3 mL/kg なので,計算すると 1.25 〜 1.5 mL/kg/hr の速度で 5% ブドウ糖を投与すれば良いことになります。UpToDate では間を取って約 1.35 mL/kg/hr でいきましょうと書いてありました。実際には予想通りにいかないこともあり適宜の血液チェックは必要ですが,相当簡単に投与速度が求まるのは非常に助かります。(なぜ予想通りにいかないことがあるのか,については Evernote のまとめを読んでみてください)

 

まとめ:

  • 高ナトリウム血症は 5% ブドウ糖を,
    1.25 〜 1.5 mL/kg/hr の速度で投与しましょう。

    (ただし適宜,血液検査でチェックは必要)
 
今回の記事は「慢性高ナトリウム血症」の治療についてを書きました。なので,醤油を◯リットル飲んだような「急性高ナトリウム血症」ではもっと治療を急ぎます。より詳しく知りたい方は参考の Evernote のまとめを読んでみてください。
 

 

 

 
参考: