妄想先生 第十四回 | 中川忠の小説です。

中川忠の小説です。

中編小説を掲載しています。方針を変更して、毎日の連載にします。

 

 森岡先生は久しぶりに塾に復帰した。倉橋まみは黒板に英文法を書く森岡先生の背中に抱きつく。レールボードは廊下からその様子を見ていた。

 森岡先生のペニスはいつ触っても強くはちきれている。妄想の中に漂う男は、ペニスでものを考える。

 教卓に倉橋まみを寝かせて森岡先生は倉橋まみの膣の中にペニスを差し入れる。腰を動かしながら授業を進める。

 神聖な教室で何たるふしだらな。

 生徒たちは夢を見ているような目付きで森岡先生の話をきいている。

 何事が現実で何事が夢なのか、俄に答えることの出来る人はただの馬鹿だ。

 

 

ーー夜空に星はない

  朝に光はない

  煙る、煙る

  町は煙る

  世の中を悪くしたのは誰だ?

  おれか?

  おれも含めてみんなだ

  生きることの意味を考えよ

  そうすれば世の中はよくなる

  ああ、なんたるたわごと

  生きることに意味はあるのか?

  ただただひたすらに金儲け

  世の中が悪くなろうと構わない

  自分が金持ちになればいい

  煙る、煙る

  町は煙る

  ぼくはじっと目を開けていることが出来ない

 

 

 倉橋まみは元々冷静な性格だ。姉のマライア・キャリーは情熱的だが、妹の倉橋まみは何事も合理的にものを考える。感情に流されないというのは利点だが、もう一つ人間的な暖かみに欠ける。

 まみは部屋で窓の外を見ている。空に渦が巻いて何か不吉な前兆のようだ。渦が次第に巨大な人間の顔に変わる。

「倉橋まみ」と人間の顔になった渦が声を出す。まみにはこういうことはよくある。あまりびっくりはしない。

「はい」

「神の世界に森岡先生を連れてくることは可能か?」

「可能だと思います」

「彼は今スペードのエースに追われている。捕まる前に何とか助けてあげなければならない」

「森岡先生は不実です。沢山の女の人と関係しています」

「お前はそれを恨みに思うか?」

「いいえ、そうでもありません。わたしは森岡先生が好きだから、あの人の自由にしてもらいたいです」

「何とも羨ましいなあ」

「神様だって、女の人はよりどりみどりでしょう?」

「そんなことを大きな声で言うな。馬鹿」

 

 

 ポストを開けると赤紙が届いていた。森岡先生はビクリと身を震わせる。

 戦争中でもないのに赤紙が来るのは妙だとは考えなかった。彼の頭の中は目下戦争中だ。クルクルクルクル回る。自分の力では制御出来ない。特にエッチな妄想はとめどもなく溢れる。

 『召集令状』と書かれた赤紙の下に住所と電話番号が書かれてある。見ると森岡先生の家から近い。森岡先生は徴兵逃れをしたかったので、思い切ってその番号に電話をする。

「はい、もしもし、赤紙係です」

「国に逆らうことは恐れ多くて出来ないんだが、ぼくは出来れば徴兵を逃れたいんだ」

「そのご用件なら今すぐこちらにお出で下さい」

「行ったら何とかなるんですか?」

「世の中ほとんどのことは話し合いでどうにかなるものです」

 

 

 それは普通の一戸建ての家だった。とても政府の機関がある建物には見えない。第一『赤紙係』などという政府の機関などきいたことがない。これはきっと何かの詐欺だと考える。

 百万円の布団でも買わされたらどうしようか? クーリング・オフ制度があるとはいえ、それを使うのはどうも気が滅入る。世の中に詐欺をするような悪い人がいるという事実が森岡先生のような気の弱い人物にはどうも耐え難い。

 ピーンポーン

 はああああい

 ドアが開くと倉橋まみがエプロン姿で出て来た。

「あれ? きみは高校生じゃないか。どうしてこんな所で働いてるんだ?」

「神様の事業に高校生も何もないんです。むしろ若い方が神様に近いので、手先になることが多いのです」

「手先?」

「足先ではありません」

「指先?」

「毛先」